零の旋律 | ナノ

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 目的地を告げられていなかった一行だが、やがて目的地の街――というより村に到着すると、流石に驚きを隠せなかった。
 何せ村に一歩足を踏み入れた途端、すれ違う人物は誰もが金の瞳をしていた。そう此処は魔族の村だ。
 人族には知られないよう人知れず暮らす魔族の村、そこに人族が足を踏み入れればどうなるか馬鹿でもわかる程に簡単なことだが、しかし今人族であるレインドフの面々には魔族のサネシスが一緒だ。襲われることはなかった。それでも敵愾心に満ちたの視線は浴びせられる。
 リアトリスは終始カトレアが離れることがないように手を握っていたし、アークやヒースリアもカトレアには気を使っていることが伺えた。カトレアだけは特別扱い何だなとサネシスはその様子を見ながら思う。

「で、なんで魔族の村に?」
「ホクシアや俺らがお前に用があるからだ」
「なら、レインドフでも良かったんじゃないのか?」
「それもそうだが、それよりもこっちに来てもらう方が都合よかったんだ」
「ふーん、まぁ俺は別にいいけど」

 万が一魔族が襲ってきた時のためか、アークは周囲への警戒を怠っていなかった。
 流石だなとサネシスは思うと同時に、本当にこんな選択肢で良かったのか――腸が煮えかえるのを我慢するだけの意味や価値があったのかは今でも多いに疑問だった。
 だが、不満があるわけではない。それ以外の選択肢を考えると、背水の陣よりも尚状況が悪いのだから。

「アーク、来たか」

 村の中心に近づいた所で、金の瞳ではないのに、魔族から敵意を受けていない青年が待ち構えていた。
 光加減では紫にも水色にも見える不思議な髪質を持ち、魔族の味方をしている人族であり魔族もその存在を味方として捉えている青年ヴィオラだ。
 何より稀有なのはその青年は魔導師ではなく『魔術師』だということであろう。

「ヴィオラ、お前も依頼人の一人か?」
「まぁ、そういうことだ。本当に、お前らサネシスが一緒じゃなきゃ、襲いかかられていたな」

 ヴィオラの苦笑に、アークは同意する。サネシスという魔族がいるからこそ、誰も人族に対して襲いかからなかったのだ。恨みつらみは沢山あっても罵声を浴びせることはなかった。

「……なぁ、そこの魔族たちは?」

 空の旅をしてから無言だったハイリは――どうやらハイリは高所恐怖症の節があるらしい――ようやっと落ち着きを取り戻したのか、視線はヴィオラの後ろに縮こまるようにしている魔族の女子供を見ている。

「あ……こいつらは、人族に捕まっていた魔族だ。先日、ホクシア達が救出した」
「成程」

 ハイリは魔族の視線を気にせず一人でその女子供に近づく。咄嗟に身構える魔族だったが、ハイリは目の前に近づくとしゃがんで治癒術を駆使し始めた。杖は地面に置いてある。治癒術で使っているのは専らはブレスレットにしてある魔石だった。
 ハイリの行動に目を点にしたサネシスだったが、対照的にその腕前を知っているヴィオラはアークに近づく。その表情はハイリに対してどうすればいいのか、わからないといった顔だ。

「治してくれるのは有難いが、後で料金請求されても支払えないぞ?」

 ヴィオラ一人の治療費だけでさえ馬鹿だかかったのだ、数人を治したさいの額は想像するだけで恐ろしい。

「ん? あぁ、大丈夫だ」

 だが、そんなヴィオラの心境を知ってか、アークはこともなく答える。

「なんでだ?」

 まさか、アークが代理で支払うわけでもあるまい。


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