零の旋律 | ナノ

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 アルベルズ王国港町“イルセ”にアークとラディカルは到着した。久々の陸地にアークは背伸びをして身体を解す。

「おおっ、此処が港町イルセか。俺、初めてきた」

 ある程度賑わいを見せているような港町。行き買う人々。ラディカルは眩しいのか額に手を当て、日陰にして景色を眺める。

「眼帯君の今後の予定は?」
「んー特にないんだよね、実は。今にも死にそうなお兄さんの予定は?」
「俺も特には、実は依頼主と会うのは明日なんだ」
「じゃあ、どっかその辺の酒場でもいかない!?」

 目を輝かせてラディカルはアークの方を向く。

「構わないが、何故そんなに目が輝いているんだ」
「だって俺一人じゃ酒場入れないもん」
「あぁ、成程」

 ラディカルの実年齢は二十五歳だが、その見た目はどう見ても十代後半。十七歳程度にしか見えない。二十歳を超えているようには到底見えない容姿では、酒場に入れてすら貰えないだろう。
 だからこそ、アーク同伴ならと考えていた。

「じゃあ、適当に探して入るか」

 依頼主との面会が明日なのは、船が予定通りに着くとは限らないからだ。念には念を入れ、一日余裕を持たせていた。

「おー」

 年相応に見えない振舞いをしながらラディカルは好みの酒場を探す。
 外装が綺麗な酒場を見つけ、二人は扉を開け、中に入る。扉を開けると人が入店したことを知らせる鈴が鳴る。
 階段を降ると、そこは仕事帰りの男性客で賑わっていた。酒場といっても、カクテルバーのような造りで、ステンド硝子で描かれた店内は何処か神秘的で幻想的な雰囲気を漂わせていた。蒼と紫で彩られた空間。

「いらっしゃい」
「二人」

 ラディカルがピースの形をしながら、手と声で人数を言う。アークは一瞬酒場の店員を見て無言になる。
 酒場の店員はアークの視線に気がついたのか、気が付いてないのか、空いているカウンター席へ案内する。
 酒場は店員一人とマスターによって営業されていた。広さの割に、聊か人が少ないように思える。

「いらっしゃいませ、初めてだね」

 マスターが愛想よく初めて見る顔のアークとラディカルに話しかける。
 ラディカルの容姿が幼いことに怪訝そうな顔をすることもない。気にしない性格なのか、儲かればいいと考えているのかは謎だ。

「観光できたんだ」
「観光ね、こんな場所に観光もないだろうに」

 マスターは苦笑いしながら、冷や水を二人に出す。手慣れた手つきだ。

「まぁ……でも、観光することが出来ないわけじゃないし」

 ラディカルも半ば同意しながら、乾いた喉を潤す。

「お兄さんは何を飲む?」

 メニューを捲りながら、ラディカルはアークへ問いかける。

「ん、あぁじゃあカシスを。ってか此処はビールからワインからカクテルまで一取りあるんだな」
「えぇ、そうよ。あぁマスター、新しいお客さんきたみたいだから、そっちを宜しく」

 扉が開くと同時に扉につけている来訪者を知らせる鈴が鳴る。
 マスターはお客を迎えにカウンターから出る。

「カシスと、そっちの少年はどうするのかしら?」

 何処となく女性らしさを醸し出す風貌、腰まである長い撫子色の髪を揺らす。紫色の双眸はゆったりと二人を交互に見比べる。何処となく女性的な口調で話すが、その声色や、体格は男性だ。

「ん、俺は……ビール」
「わかったわ、ちょっと待っていてね。おつまみの類は必要かしら?」
「いや、いい」

 お酒を久々に飲みたかっただけのラディカルはビールを注文しながら、内心この店員はオカマなのだろうかと考える。

「店員さんはオカマ?」

 考えていても結論が出ないと、ラディカルは直球で聞くことにした。
 その直球さにアークは腹を抱えて必死に笑いをこらえながら――しかし堪え切れず笑っている。
 店員も面をくらったような顔をしていたが、やがて微かに笑いながら答える。

「どちらでも構わないわよ」

 曖昧に。


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