零の旋律 | ナノ

V


「サネシスか、何用だ?」
「依頼だ、詳細は後で伝えるからとりあえずついてきてくれないか――?」
「構わないけど」
「よし、なら行こう。次いでにこの家にいる人全員な」
「は?」
「いいから」
「……わかったよ」

 サネシスの真意は読めなかったが、それが『依頼』であるのならばアーク・レインドフは断らない。アークが屋敷にいる人を呼ぶ。サネシスが見かけたメイド二人、そして 執事だけだろうと思っていたが、見知らぬ青年が一人増えていた。
 途中で屋敷に来た気配はしなかった。恐らくは最初から屋敷にいたが、魔族の依頼人を気にしないのかそれとも誰かが来たことすら気がつかなかったのだろう。
 その青年は黒い帽子を被った白髪にやや目つきの悪い紫色の瞳をしていた。杖には魔石が装着されている所を見れば、魔導師か何かなのだろう。

「ん? リィハが気になるのか?」

 ハイリに視線が向いていることを気がついたアークが問うと、サネシスは素直に頷く。
 ハイリ・ユート、愛称はリィハで治癒術師という簡単な説明だけ受けた。屋敷の外に出た所で、サネシスは魔物を呼び寄せる。カトレアは驚いていたが、リアトリスが優しく手を握ったことで安心したのだろう、落ち着いていた。
 当初は一人一人、魔物に乗ってほしかったが、カトレアとリアトリスは一緒の方がいいだろうと判断して――ついでリィハも一人で載せたら危なっかしい気がして、先ほど呼び寄せた魔物よりさらに一回り大きい魔物を二体呼び寄せる。

「アークとリィハ。カトレアとリアトリスは一緒に乗ってくれ」
「はわー。魔物で移動するなんて人生初体験です」

 リアトリスは魔物に軽々と――特に何の恐怖も抱かず跨ってから、毛を撫でてその触り心地を堪能していた。

「カトレアもおいでですー。可愛いですよ」
「う、うん」

 可愛いですよ、に反応がなかったところをみると、カトレア自身は可愛いとは思っていないのだろう。サネシスもリアトリスが乗っている魔物を可愛いといわれても同意出来るきはしなかった。

「相席する人がいないのは嬉しいことですが、リィハは何故主と?」

 場所も目的地も告げられていないのに遠出を――しかも魔物に乗って移動しなければならないことが多いに不服なのかヒースリアの声色は刺々しい。

「なんかリィハ運動苦手な予感がしたから」

 否定の声は上がらなかった。


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