零の旋律 | ナノ

始末屋裁縫


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 ヒースリア・ルミナスはその日主であるアークの自室内で固まっていた。

「えーと主、ツッコミにくいボケは止めて欲しいのですが」
「は? 俺のどこがボケているんだ?」

 首を傾げているのかもしれないが、アークの顔はヒースリアの位置からだと見えないため確認しようがない。

「布の山を作っている主の姿を見て、ツッコミを待っているボケなのか、普通にボケているのか判断が難しいではないですか」
「……いや、これパッチワーク用の布」
「は?」

 ヒースリアは眉を顰める。今、主は何といったか。ヒースリアの聞き間違えでなければパッチワークと言っていた。
 ヒースリアは布の山によって顔が見えないアークを見ようと正面に回ると、事実布の向こう側でアークはパッチワークをしていた。布と布を合わせて――推測間違えでなければ手提げを作っている。
 しかも、これで手先が不器用で歪な物が出来るのならばいくらでも笑いようがあるのに、綺麗な形を形成しているのだから、ヒースリアは反応に困った。

「なんでパッチワークをやっているんですか? 主にそんな趣味あるはずがないですのに」
「なんで全否定なんだよ!」
「主の趣味は仕事をすることでしょう? ……しかも布の一枚一枚いい布を使っていますねぇ」

 わざわざ作らなくとも、この布を買う代金があれば、職人の作ったパッチワークの品くらいいくらでも手に入りそうだった。

「いや、この間偶々寄った本屋で是見つけて面白そうだから布と本を買ってきたんだ」

 そう言って手渡してきた本のタイトルは『楽しくパッチワークをやろう!』という別段タイトルに工夫がないただのパッチワークの本だった。

「主。いっそお嫁に嫁いだらどうですか?」
「やだよ。つーかなんでだ」
「料理出来て、力仕事も出来る。仕事も出来る、裁縫も出来る……家事全般出来るってなったら家事が嫌いな世の女性には喉から手が出るほど重宝してもらえると思いますよ」



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