零の旋律 | ナノ

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 移動空間の中は細い糸がいくつも絡みあって螺旋を作りあげる。淡く輝く光の弾が周囲に浮き、螺旋と光以外は何もない真っ白な空間で、ノハは不思議そうに魔導師へ問う。

「なんで助けた?」
「……少し、休んでいて下さい、理由は後々」

 魔導師は睡眠術を扱うと、疲労しきっていたノハは逆らうことなく眠りについた。
 ――貴方は、私にとって都合がいい存在、此処で死なれたら困ります。
 魔導師はローブを外すと桜色の髪が途端に姿を現す。女性とも男性ともとれる中性的な容貌、その容姿とは裏腹に様々な作戦を脳内では導き出してきた。
 ――そう、実力がありながら世間的には――裏社会でも死んだことになっている貴方は。私にとってありがいた存在。
 魔導師――軍師アネモネは不敵に微笑んだ。


+++
「で、主、誰だったんですかあの魔導師は」

 すっかりいつもの雰囲気になったリアトリスとヒースリアは、魔導師を知っている風だったアークへ問う。

「あいつ、帝国にいった時に出会った軍師アネモネだ」
「ほへぇ!? 帝国の軍師ですか!?」
「軍師が……何故、ノハに?」
「わかんね。でも、なんか企んでいる風だったのは間違いないな」
「主が無様にヘマをしたせいで、逃げられましたしね」
「俺のせいじゃねぇだろ!」
「いえ、主のせいですよー。五百六パーセント」
「中途半端すぎて微妙だろ!」

 何時もの、日常的な会話をする三人にもう結界は必要ないと判断し、シャーロアは結界を解く。するとシャーロアとハイリにカトレアが近づいてきた。

「シャーロア、大丈夫……? その、有難う」

 ノハに襲われた時、最期まで自分を守ってくれようとしたシャーロアにカトレアは精一杯の笑顔でお礼を言った。

「お礼なんていらないよ、友達を守りたいと思うのは当然のことでしょ?」

 シャーロアが優しく手を差し伸ばしてきたので、カトレアも握り返した。手をつないだまま、姉の元へ向う。

「シャーロア! 此処まで一緒にきてくれたんですねーありがとうですー」

 リアトリスがシャーロアを抱きしめる。

「ううん、当然だよ」
「ほんと嬉しいですよ―。カトレアは怪我ありませんですかー?」
「うん、大丈夫だよお姉ちゃん」
「なら良かったです―!」

 笑顔で何事もなかったのように――普段のリアトリスへ戻り振舞う。
 でも――ハイリは気がついてしまった。そのリアトリスは偽りであることに。恐らくリアトリスの本性はアークに刃を向いた時の、姿が本当なのだろうと。

「さて、帰ってアークに飯作らせるか」

 シャーロアの怪我しか治療らしい治療はしなかったが、何事もなく終わったアンドからハイリは小腹がすいていた。夕食を食べるのにはちょうどいい時間でもある。

「俺が作るのか!?」
「当然だろ。シャーロアも食べてくだろ?」
「うん、御馳走になるね!」
「……まぁいいけど」

 そうして、談笑をしながらレインドフ家へ戻って行くのであった。


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