零の旋律 | ナノ

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 ノハが魔導を詠唱し始めた時、そうはさせないとアークが踏み込んでくる。リアトリスも続く。刃が振るわれる――ノハはその時、普段ならばあり得ないのに詠唱の言葉を間違えた。それだけでは魔導は不発に終わるだけだった。
 不発に終わった弱い魔導の炎がかけた魔石に伝播し、そこから両方が不発に終わった魔石同士が違う詠唱を一つの魔導だと誤認した――その瞬間、魔石が暴発したのだ。咄嗟に身体を急停止してアークとリアトリスは止まる。
 途端に迸る焔の火柱。

「ああああがああああああ」

 流石のノハも想定外のことに悲鳴を上げるしかなかった。全身が灼熱に焦げる痛み、熱。
 ノハはそこから逃れるように足を動かし――そして屋根から足を踏み外して川へ落下した。

「ノハ……!」

 リアトリスは追いかけようとするが、おさまらない火柱が邪魔をして進めない。

「……ちっ」

 アークは舌うちをしてから魔石を取り出して水属性の魔導を放ち、鎮静した。そのあと、ノハを追おうとしたが、あるのは多量の血の跡。焼け焦げた匂いも漂う。

「……まぁ、あの怪我なら死んだか?」

 魔導の暴発を食らっただけでなく、アークとリアトリスとの戦闘で既に怪我を負っていた。

「そうね。それに――ノハは泳ぎが苦手だから」

 無事に済むとは到底思えない怪我を負いながら、川の流れに揉まれれば生きてはいられない。アークとリアトリスはそう判断したし、ノハも死ぬんだなと薄れゆく意識の中で思っていた。
 そして川の中でノハは意識を失った――。

+++
 無事組織を壊滅させたリアトリスはカトレアと共にレインドフの屋敷にやってきた。尤も、怪我を負ったリアトリスはノハとの戦いで緊張が解けたのか、あの後力なく倒れたのでアークが担いできたのだが。
 隣を歩くカトレアは気絶から目を覚ました後、リアトリスの帰りを待っていた。最初はアークの姿に強張ったが、説明を受けてすぐに納得した。
 屋敷のベッドでリアトリスを寝かせるとアークが何処かへ行ったので、カトレアは姉の手を握りながら舞っていると、白髪の――アークと同い年くらいの人物を連れてきた。やや柄が悪そうな雰囲気に強張ったカトレアだが、アークが治癒術師ハイリ・ユートだと説明をした所で、縋るような思いでハイリに姉の怪我を治して下さいとお願いをした。

 翌日リアトリスはベッドの上で背伸びをする。目を覚ました時、隣でカトレアが寝ていたので心底安心した。
 ――まだ、生きている。カトレアが

「カトレア」

 リアトリスは優しく頭を撫でた。

+++
 一カ月後

「あるーじ!」

 リアトリスは怒っていた。その隣でアークは申し訳なさそうにしている。

「一体今月何人目ですか! メイドの仕事は死体処理じゃありませんよ!」
「いやぁつい」
「ついで殺さないでください! 求人広告出しても追いつかないじゃないですか!」
「え? 最近レインドフで働きたい人が多いと思ったら求人広告出していたのか!?」
「主はボケかツッコミかはっきりして下さい!」

 すっかりレインドフに馴染んだリアトリスとカトレアであった――カトレアは庭で花壇の手入れをしている。


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