零の旋律 | ナノ

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 ノハは淡々としながらも、その瞳には確かな怒りを滲ませていた。
 突如として舞った花弁を見間違うはずもない。リアトリスの槍だ。その槍がカナリーグラスへ刃を向いたのだ。そして現れたのはリアトリスと、始末屋レインドフだった。
 その組み合わせに驚愕すると同時に、リアトリスが自分ではなく手を組む相手を変えたことが少しだけ寂しかった。そして理解した。リアトリスはきっとレインドフに負けたのだと。その結果どんな取引が交わされたのかはわからないが、リアトリスはレインドフと一緒にいる道を選んだ――この場にはいないカトレアと一緒に。
 その時、カトレアの要望を聞いたことが失敗だったと悟った。
 リアトリスが死なずに負ける原因があったとすれば、それはカトレア以外には考えられない。

「……どれだけ仲間を殺せば気が済むんだよ」

 仲間の死に何の感慨も見せずにノハは呟く。リアトリスとアークは無情な刃を振るい、この場にいた暗殺者を殺害していた。血に染まった舞台の中でノハだけは未だ悠然と立ちつくす――否、その場から一歩も動いてすらいない。死の刃がノハに向かってくることはなかった。
 ――僕を最初に狙うのは不利だって計算か。

「……全ての誤算は始末屋――お前か」

 ノハは両手に銃剣を握る。
 ――約束を守る限りはこっちも約束は守るけれど、約束を破った以上、最早過去の約束なんて存在はしない。
 ノハは滑らかな足さばきで動き出す。裏切り者と始末屋を抹殺するために――

「あははは! こりゃ楽しいな!」

 アークは愉快だと笑う。カナリーグラスgTノハと戦えるのだ、戦闘狂にとってこれほど愉快なこともない。
 ノハの拳銃と剣を兼ね合わせた武器で戦ってくるその流麗な動作にアークは笑みが浮かぶばかりだ。

「たく……噂通りの戦闘狂だな」

 アークがその辺に転がっていた死体を投げてきたのでノハは交わす。血が腕に付着した。ノハは交わした後、さらに逃げるように移動すると、そこには予めノハの着地地点がわかっていたかのように花弁が襲いかかってくる。ノハは銃剣で花弁を弾き飛ばす。目標を見失った花弁が地面を抉る。
 アークが駆けてくる。ノハは牽制の意味も兼ねて銃弾を連射する。見切っているのか悉く交わしてノハの間合いまで詰めてきた。


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