零の旋律 | ナノ

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「……ちっ、勝負の邪魔をするなよ」

 勝負に水を差されたアークはやや機嫌を悪くして、水をさした人物たちを殺すために走り出した。
 暗殺者の二人はカトレアに手を出されては困るため、物置がある方へ移動しながら、武器を構えてアークを待ち構える。

「なっ――!」

 だが、虫をはらうように倒される。刃を向ける、アークはそれを身体の上体を逸らす。口元には笑みが伺える。背筋が凍るようだった。
 必死に銃弾を連射すれば、悉くはじかれた。あっと言う間に身体を短剣が抉り血を流して倒れる。残ったのはカトレアだけだ。

「あっ……」

 逃げようにも身体が震えて動けない。間近で人の死を眺める感覚、恐怖、此処にいてはいけないと警鐘を鳴らしているのに、石造のごとく動けない。
 そんな様子を気にもせず、アークは刃をカトレアへ向けようとした瞬間――アークは咄嗟にその場から離れる。
 刃が回転しながら襲いかかってきたからだ。アークが避けたことで、それは攻撃対象を失いカトレアの隣で壁に激突した。

「きゃっ……!」

 刃が隣に遠慮なく衝突した恐怖と、赤を見たことでカトレアは気を失い、その場に力なく倒れた。

「……何?」

 アークは不思議そうに顔を顰める。アークを攻撃してきた“それ”は花弁のついた槍だった。リアトリスは肩膝をつきながら鬼の形相をしている。

「カトレアに手を出すな!」
「ふーん、この子、カトレアというのか」

 リアトリスは走り出そうとするが、アークが手を出せば間に合わない。先刻は咄嗟に武器を投げることでアークの気を引いた。しかし次はない。

「そうよ、カトレアには手出しさせない」
「それは、君が武器を手放すほどに大事なのか、成程」

 何か名案が浮かんだのか、アークは含み笑いをする。それが不気味だったものでリアトリスは眉を顰める。武器を取りにいく余裕を与えてはもらえないだろう。リアトリスは槍以外の武器を持ち歩いてはいなかった。
 ――素手であの男とやるのは厳しいけど、それでも負けるわけにはいかない。私にはカトレアがいる、私が負けたらカトレアを守れなくなる。
 ――ノハは、私が約束を守ってくれる限り私たちを守る。けれど、約束を私が破ったらノハは……
 アークは短剣を掌で一回転してから、向かってくる。リアトリスは立ちあがって構える。短剣が切りかかってくるのをリアトリスは正確に見きって交わす。そして左足に重心を載せて右足を高くかかげ蹴る。アークはそれを腕でガードする。リアトリスはすぐに足を戻して距離をとった。

「ふーん、体術もやるなぁ。やっぱり――」

 アークの企みはわからない。リアトリスはすぐさま連続で蹴りを入れる。アークは腕で悉くガードしながら、あいている片方の手で短剣を向ける。身体を捻ってリアトリスが交わそうとしたので、ガードしている腕の向きを変えて足を掴んだ。

「なっ――!」

 短剣が腕を抉る。痛みで顔を歪めながらもすぐにアークを引っ張るように足を移動させながら殴りにかかるとアークは後退した。

「……(やっぱり槍がないと厳しいか)」

 腕から流す血を見ながらリアトリスは舌打ちする。アークはすぐさま追撃してきたのでリアトリスは迎え撃つ――


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