零の旋律 | ナノ

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 その頃ノハは疑問を抱いていた。他の暗殺者たちならいざ知らず、リアトリスが伝令も何も飛ばしてこないのはおかしかった。
 何かリアトリスでも苦戦する予想外の相手でもいるのだろうか。

「……うーん、どうするかな」

 自分が出向いても構わないが、そうなると他の作戦に支障をきたす。何より、リアトリスが苦戦をしても負けるという姿は想像がつかない。他の暗殺者をリアトリスの元へ向かわせることも出来たが、リアトリスが仮に苦戦していると想定するならば、自分以外が行ったところで足手まといにしかならない。

「あの、ノハ……お姉ちゃんの様子見に言っても……いいかな?」
ノハが悩んでいる時、遠慮がちにカトレアが近づいてきた。
「うん? あぁ、心配なのか」
「うん」

 姉の実力は信頼しているが、様子を見に行ったリアトリスが音沙汰ないのがカトレアは心配だった。
 もしかしたら何か起きたのではないか、そう思うといてもたってもいられない。
 自分が出向いたところで足手まといにしかならないことは重々承知しているが、それでも心配で今すぐにでも駆けだしたいのだ。

「んー、わかったよ」

 カトレアが心配している気持ちもわかるノハは、リアトリスの元へ行くことを許可した。
 ――それが失敗だったとは誤算だったよ。
 ノハはカトレア一人で行かせるわけにはいかないから、暗殺者を二人同行させた。
カトレアの姿が見えなくなった時、一人の暗殺者がノハに近づいてきて疑問をぶつける。

「何故、カトレアには甘いんですか? ノハさん」

 カトレアはカナリーグラスにいながら暗殺者ですらない。むしろノハは色々カトレアの面倒を見ている、それが納得出来なかったのだ。

「カトレアは特別だ、お前たちも優遇されたかったらそれだけの実力を示すんだな。リアトリスが実力を示している間は、カトレアは安全が保障されている――そういう約束だ」

 だが、暗殺者の心境をあざ笑うかのようにノハは告げる。
 ――そう、リアトリスがカナリーグラスで成果を示し続ける限り、カトレアは特別扱いされ続けるのさ。リアにとって、大切なのはカトレアだけなんだからな。


+++
 リアトリスが刃を振るう度に、花弁はしなり地面を抉る。アークはリアトリスの猛攻に笑っていた。

「はは! ほんとうにいいわ、最近骨のない奴ばっか相手にしていたから、お前みたいなやつと戦えるのは楽して仕方ない!」
「……(本当にこいつはなんなのよ! どうして、笑っていられる)」

 リアトリスはアークに寒気を感じながらも、距離を取りながら攻撃を繰り出す。
 レイピアのような細い短剣を両手に握りながらアークは花弁を弾いては、距離を詰めてくる。
 一進一退の攻防は続く。既にお互い、攻撃を相手へ入れていたが、どれも浅く致命傷には至らない。

「お姉ちゃん!」

 その時、リアトリスの気がそれた。その隙をアークは見逃さない。迫る短剣、リアトリスは身を翻そうとしたが遅い。腹部を短剣が抉る。だが、それでも致命傷を避けられたのは日ごろの訓練のたまものだろう。咄嗟に地面に倒れて転がり起き上がる。腹部の服が赤く染まった。

「カトレア! どうして!」

 その場に現れたのはカトレアと二人の暗殺者。途端にリアトリスの集中力が途切れる。
 ――どうしてこの場にカトレアが、まさかノハの差し金?


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