零の旋律 | ナノ

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 “始末屋”予想外の人物ではあったが、しかし邪魔をするのならば誰であろうと殺す。失敗は許されない。失敗すればすぐにでもカトレアが危なくなる。
 リアトリスは槍を構える。ノハから武器をプレゼントされてから、暫く立つが、どの武器よりも是がしっくりきていた。今ではこの武器の力を存分に発揮することが出来る。リアトリスに続いて、暗殺者たちもそれぞれの獲物を構える。中にはリアトリス同様暗殺には不向きな武器もあった。それは『カナリーグラス』の特異性を示している象徴でもある。
 リアトリス以外の暗殺者たちが一斉に動き出すが、始末屋の前でその力は無意味だった。人殺しのプロである彼らが、赤子の手を捻るような動作で始末屋に殺されたのだ

「ちっ……!」

 リアトリスが後方に飛び跳ねると、銃弾が降り注ぐ。間一髪で交わしたリアトリスは華麗に着地すると槍を振るう。接近戦だけではなく中距離からも花弁の鞭を利用した攻撃が使える。うねる花弁に、アークは空になった銃弾を捨てて屈む。屈んだ先にはアークが殺した暗殺者が血を流して横たわり、手には猛威を振ることが叶わなかった片手剣が握られていた。それを奪い取って、襲いかかる花弁を受け止める。
 ビキリ、ひび割れる音が聞こえてアークはすぐに片手剣から手を離して身体をのけぞらせる。間一髪のところで花弁がアークの頭上を横切る。髪の毛が数本持っていかれた。

「はははっ、楽しいな!」

 アーク・レインドフは愉悦する。笑う。久々の強敵に巡り合えて戦闘狂の血が唸るのだ。
 ――楽しいだと?
 それはリアトリスには理解できない感情だった。戦うとは生きるためであり、勝つとはカトレアを守るためである。それ以外にはない。笑みを浮かべている理由も感情も理屈も何一つわからない。
 槍を突き刺すとアークは間一髪で交わし、懐から銀ナイフを取り出して投擲する。顔面に向けて飛んできたそれをリアトリスは首を傾げる動作をしただけで交わす。無理な体勢で銀ナイフを投擲した影響でバランスを崩すか、とリアトリスは一歩踏み込んだが、アークは地面に片手をついて勢いに任せ体制を整える。体制を整える間にも、アークは器用に開いた片方の手で銃を発砲した。リアトリスは一歩踏み込んだせいで、動作が少しだけ鈍くなり銃弾の一発が頬をかすめる。
 一定の距離を取りながら、相手の様子を伺う。
 数度刃を交えただけだが、始末屋が強敵であることは確かだった。苦戦することは間違いない。苦戦することは、リアトリスにとってノハを除けば初めてに近かった。それでも負けるつもりは到底ないし、負ける予定もなかった。リアトリスにとって負けとは、カトレアを守れなくなることだ。
 自分の命が惜しいと思ったことは一度もない。ただ、カトレアが守れなくなること、それだけは避けたかった。それだけが自分が今まで生きてきた理由。
 槍を頭上で回せば花弁も一生に円を描く。遠心力がついた花弁がアークを襲うと同時にリアトリスは踏み込み槍を振るう――


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