X リアトリスとカトレアがともに十五歳になった時、変化が水面から訪れる。それは波紋一つなかった湖に突如として隕石が落下したようなものだ。 その頃、ノハは実戦部隊のトップであるgTになり、リアトリスはgUへと上り詰めていた。 ノハとリアトリス、以下十数名は大規模な任務のためにとある町を訪れていた。そこで依頼を達成したのち――全てを無かったことにするためにその頃は殆ど一緒に任務をこなすことがなかったノハとリアトリスが集まったのだ。他の暗殺者たちも殆どが実力は上位であるものたちで構成されていた。それだけで今回の任務がどれほど大規模なものかを物語っている。 そして、そこには実戦部隊とは別に、何かあった時のために、医師とカトレア以下数名がいた。リアトリスにとっての気がかりはカトレアがこの場にいることだが、しかしノハも自分もいない組織に置いておくこともまた危険だということを認識していた。ならば目の届く範囲にいた方が安全だろう。ノハも同様の判断を下しているようだった。 先行部隊として送った暗殺者の何名かが指定時間になっても来ない。この辺はすでに無人の街となっているが、まだ街の中心部から東部や西部には人がいる。しかし、そこからでは、この現状に気付けないし、気づくためには夜が遅すぎた。何か予期せぬ事態が起きたのか、それとも何者かがこのタイミングで侵入したというのか――ノハは思案した挙句、尤も信頼出来る部下であるリアトリスと、他に数名の暗殺者をつけて様子を伺いに行くように指示を出す。リアトリスは頷いてから、カトレアに待っていてねという優しい視線を送って、その場を後にした。 +++ 割れたランプから漏れる僅かな灯は廊下を闇から薄暗い場所へと変える。 薄暗い場所は僅かな時間だけ照らされてどんどん先へ進んでいく。所何処にうつるは真っ赤な血が足跡となり続いていく。 当時十九歳であったアーク・レインドフは、この時依頼内容の詳細は別として『カナリーグラス』と標的が被っていたことにまだ気が付いていなかった。裏社会の住民と思しき数名が襲いかかって来たので、手元にあるランプで応戦した結果、ランプが割れて灯りが弱くなってしまった。 視力に頼らずとも進んでは行けるが、しかし灯りがあるなら意図的に灯りを消そうとは思わない。手元にあったからといって、もっと別の――例えば廊下に飾られている絵画で応戦すれば良かったなと今さらながらアークは後悔していた。 [*前] | [次#] TOP |