始末屋他国 アーク・レインドフは船で片道三日かかる他国へ遠出していた。 「……暇だぁ」 現在、アークは一人で別大陸のアルベルズ王国へ向かっていた。 アルベルズ王国の貴族から依頼を受け――正確には依頼を受ける為の移動。 こんなに暇なら執事か双子を一緒に連れてくれば良かったと思わないでもない。 一部屋に籠っていても暇なだけと判断し、レストランホールへ向かう。 そこで遭遇率がやたら高い眼帯君を目撃する。眼帯をしている人物は怱々いない。 「よっ眼帯君」 「ほうぇえええ」 背後から声をかけると、ラディカルは大げさに声を上げて飛び退く。 「い。今にも死にそうなお兄さん、背後からは不意打ちだよ」 気配を消して近づくのだからなおさら性質が悪いと抗議をする。 「はははっ、相変わらず眼帯君は面白いよな」 「俺はお兄さんにそうされる度に寿命が縮む思いっすよ」 「眼帯君はなんでアルベルズ王国へ?」 「ん、ちょっと野暮用で」 「そっか」 定期的にアルベルズ王国へ出る定期便の中で二人は再会した。 「どうにも眼帯君とは遭遇率が高いのは何故だ」 「実は今にも死にそうなお兄さんが俺の後をつけているじゃないのか」 「だとしたら俺らはもっとあっている気がする」 「ですよなー」 けらけらと笑いながらラディカルは遭遇率が高すぎだ、と心の中で悪態をつく。アークと出会う度にラディカルは本当に寿命が減っている気分になるのだ。 「それにしても腹黒執事は今日一緒じゃないの?」 「ヒースな、今日は置いてきた。というかアルベルズまで遠出はしたくないとはっきり断られた」 「なら良かった」 「眼帯君はヒースが苦手だっけか」 「天敵っす」 相手にされていないけどと付け加え、ラディカルは執事がいないことに一安心する。 隣に腹黒い口からは毒しか吐かない執事がいては心が休まらないからだ。 「で、腹ペコ死しそうなお兄さんは何でアルベルズ王国へ?」 「仕事の依頼を受けにさ」 依頼内容はアークもまだ知らない。依頼をしたいという要請があったからアークは向かっている。無駄足にならない事を祈りながら。 「お兄さん、一緒にランチでもどうっすか?」 彼女をナンパするようなノリでラディカルはアークを誘う。断る理由がないアークは暇つぶしにと承諾した。 「船でお兄さんと会うのは二回目だけど今回は船酔いしないのか?」 「んーあの時は三日働いた後だったから体力的に限界だったんで船酔いしただけだ。まぁそこまで船が好き合わけではないんだが、やっぱり別大陸とかに移動する時は船の移動が必要だしなぁ」 「そうだったんすか」 最初の出会いが牢屋だったのは印象深く、ラディカルには苦い思い出として残っている。 「アルベルズ王国に着くまでは一緒にいないか?」 アークからの提案。後一日半、暇だった。暇つぶしの相手が欲しかった。仕事の依頼をされていない以上、仕事モードにも入っていない。 「ん、別に構わないけど、俺も暇だったし」 昼食を程なくして食べ終わり、二人はアークの部屋へ向かう。 「うわっお兄さん一等部屋をとっていたのかーうわー豪華―」 部屋は船室の中で一番豪華な一等部屋だった。クルリと一周しながら、ラディカルは部屋を見渡す。壁には絵画が飾られている。深紅の絨毯が一面に敷き詰められていて、ベッドの隣には小さいテーブルが常備してあり、その上には金色のランプが置いてある。ソファーは一人掛け用のが二つ。そのどれもが一等部屋に相応しい高級さを放っている。因みにラディカルは四等部屋を取っている。 「ん、あぁ」 「って豪勢なお兄さんは何時もこんなんすか?」 ラディカルの素朴な疑問。 「ってか眼帯君今日は〜すか、が多いなぁ。まぁいいけど。そうだよ」 「うわー豪勢。お兄さん実はお金持ちなんだ」 アークに指摘されてからか、口調を変える。 「レインドフ家は一応名家だし」 「あぁ、貴族レインドフ家だったっけか今にも死にそうなお兄さんは」 レインドフ家は一応貴族という括りに入っている。最も他の貴族とは一線を画している存在には間違いないが。 「始末屋が貴族っての大分世の中荒れ狂っているよなぁ……」 「始末屋で貴族で、他にも名称あった気がしたんだが、忘れた」 「おい、実家だろ」 「始末屋稼業ばかりだからな」 使わないから忘れるとアークは口元を歪める。 「かははっ、ほんとお兄さんって変だよね」 ラディカルは笑いながら、ソファーの上に座る。 一等部屋のソファーは材質から造りが違い、とても座り心地が良かった。心地よい眠気に誘われる。 [*前] | [次#] TOP |