零の旋律 | ナノ

カナリーグラス


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 何がどうしてそうなってしまったのか、最早記憶も定かではない。それでもわかっているのは、 “あの人”は自分たちをお金に変えたかったということ。自分たちは『カナリーグラス』そう呼ばれる組織に売られたのだと実感するのは容易かった。悲しかったのか、泣いたのかは覚えていない。けど、きっとカトレアは泣いていたと思う――そうリアトリスは思いだすこともない記憶を仮に思いだすならそういうことにしただろう。
カトレアの細い華奢な腕を優しく握った時から――それ以前から――リアトリスはカトレアを、たった一人の家族を守ると誓っていた。

 『カナリーグラス』そこは依頼を受けて対象を暗殺する暗殺者組織だった。カナリーグラスは裏社会でもかなりの知名度を保有する組織であり、そこの組織は小さい子供を暗殺者に育てることも行っていた。

「カトレア!」

 倒れたカトレアを助けようとしてリアトリスは進むべき道以外を進む。カトレアを守るためならその為に自分が殴られようが何されようが構わなかった。ただじっと耐えるだけ。それだけでカトレアは怪我をせずに済むのだ。

「お姉ちゃん、大丈夫……? ごめんね……」

 訓練が終わって自室に戻ると、カトレアは毎度決まり文句のように同じことをいった。姉は何時だって自分のために無理をするのだ。

「大丈夫だよ! へっちゃらへっちゃら」
「……お姉ちゃん」
「だから、カトレアはなーんにも気にしなくていいんだからね」

 幸なことにリアトリスは組織で生き伸びる力があり、不幸なことにカトレアにはその力がなく、
 不幸なことにリアトリスは心を殺すことが出来、幸なことにカトレアは心を殺すことが出来なかった。暗殺者としての素質があってしまったリアトリスと、素質がなかったカトレア。
 一卵性双生児でありながらも、運動神経から性格に至るまで一卵性とは思えないほどの違いがある双子を組織の上層部は不思議がっていた。
 そして――数カ月後、上層部はある決断を下した。これ以上訓練を重ねてもカトレアが人を殺すようになることはないと。

「ちょ! 何をするの!」

 カナリーグラスの暗殺者たちが何のまいぶれも足音もなく、カトレアとリアトリスの部屋へやってきて、そのままカトレアの腕を問答無用で掴み、連れて行こうとした。その手を慌てて掴んでリアトリスは講義する。


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