零の旋律 | ナノ

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「私にとっての全てはカトレア。カトレアだけが入れば、それでいい。そんなこと――わかっているよね」

 普段の明るさが一切消え去った、淡々とした言葉。ただカトレアの所だけに温かさと切実さが籠っている。

「あぁ、わかっているさ、リア」
「なら――!」

 リアトリスは跳躍すると同時に槍を力任せに振り下ろす。それだけで一撃必殺の威力を誇っていることをアークは理解している――四年前も今も変わらずに。
 アークは臆病ともとれるほどに後退して攻撃範囲から外れる。槍がコンクリートの地面を抉ると同時に、抉られたコンクリートが第二の凶器となって周囲を襲う。圧倒的な破壊の後に、シャーロアとハイリはただ呆然とするしかなかった。
 冷静になってこの状況を見ているのはアーク達当事者しかいない。
 槍が振るわれた瞬間、蠢く花弁の間をかいくぐってアークは刃と刃で受け止める。間近で競り合うかと思ったが、アークはすぐに身体を仰け反らせる。槍が今までアークがいた場所を通り過ぎる。そのままアークはブリッチをしながら身体を起こす。それはまるでリアトリスと力勝負をするのを避けているようでもあった。

「リアトリスって戦えたの……?」

 結界の内側、安全な所から――否、リアトリスが殺すつもりで攻撃を仕掛ければ結界は一溜まりもなく破れるだろう。戦えたの? その愚問をシャーロアは自分より付き合いの長いハイリに問うしかなかった。さらに言うならばシャーロアは問いながらもリアトリスが戦えることは知っていた。以前、ラケナリアの残党が襲ってきた時、リアトリスは体術でシャーロアの助太刀をしてくれた。だが、始末屋と互角に戦えるほどの実力は一切醸し出していなかった。あくまで多少戦える、その程度の雰囲気だったのだ。だからこその、戦えるの? だった。

「……そりゃ、多少は戦えることは知っていたけど――」

 視線はリアトリスとアークに釘付けだ。何せ、あのアークが互角に相手と戦っているのだ。刃と刃がぶつかりあい、地面を抉り土埃が舞う。

「アークと互角にやれるなんて知らなかったぜ」

 アークは間違いなく殺す気だ、ハイリはそう直感していた。アークは手を抜いていない。
 リアトリスの酷かった怪我の部分はハイリが治療したからといって、だが怪我していることには変わらないはずなのに、痛みなんて微塵も感じさせない機敏な動きでアークの攻撃を交わし続けている。アークが片手に剣を纏めて、開いた方の手で懐に手を入れて拳銃を取り出すと、立て続けに銃弾が切れるまで発砲する。殆どはリアトリスが交わすか、槍で銃弾を弾くという離れ業を実行した。しかし怪我をしているが故に本調子ではないのか、軽く銃弾が足を掠める。だが、重心がぶれることも痛みに眉を顰めることもなかった。痛みを感じていないのではないかと疑うほどの無表情さだ。
 球切れを起こした銃のリロードをする余裕はない。アークはすぐに拳銃を投げ捨てて再び剣を片手ずつで握る。花弁の鞭が襲いかかってくるのを、剣で弾き勢いと方向を変える。だが、槍を巧みに操るリアトリスには、その程度の向きが変わったことなど、意味がないことだった。続けざまに花弁の鞭は容赦なく襲いかかる。
 アークは鞭の間に出来る空間を巧みに移動してリアトリスとの距離を詰める。懐に入られるのは危険だと判断したリアトリスはすぐに飛びのいて距離を取る。息もつかせぬ攻防。
 どちらも相手の命を奪うことに一切の躊躇や迷いはない。殺す、それだけを該当に置いているだろう、戦い。
 シャーロアとハイリが入る隙間は最初から存在していない。
 だが、それでも入れるものは存在する。


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