零の旋律 | ナノ

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 シャーロアに案内されて向かった廃墟には、既に四人の人物が待ち構えていた。

「リアトリス……! カトレア!」

 シャーロアは声を上げたが、すぐにその雰囲気が異様なものであることを察する。

「いいか、シャーロアにリィハ。お前らはその場から動くんじゃねぇぞ。シャーロアは
可能なら結界でも貼って身を守っておけ。――守ってやる余裕なんてないからな」

 後半の言葉に耳を疑ったのはハイリだ。アークの実力は知っている。何せ幼馴染だ。そのアークが今、何と言った? 守ってやる余裕がないと。嘘だ、と頭を振る。だがアークの表情は何時になく真剣でありながら、戦闘狂特有の笑みを浮かべていた。
 それだけではない、普段はその辺の武器を獲物にするアークが、今回は最初から両手にレイピアのような形状の短剣を所持しているのだ。本気だと疑う余地は何処にもない。

「ノハ、死んでいると思っていたよ」
「僕も死んだと思ったさ。けど何の因果かね、生きていたよ」

 アークの言葉にノハは怒ることはせず、自嘲気味に笑った。

「だが、何故今さら? ……四年もの歳月をかけた」
「そんなもの、今の状態でも見れば君なら一目でわかるだろう」
「ま、そういうことか」

 腕まくりをしたノハの右腕には包帯が巻かれていて、所々は赤黒く濁っていた。“四年”その響きにハイリはピンと来るものがあった。そして接点が繋がった。四年前といえば、リアトリスとカトレアがレインドフ家のメイドになった年だ。ならば、ノハとの因縁は四年前に関係している。尤も、ハイリは何故彼女らがメイドになったかの経緯は聞かされていない。覚えているのはあの時もリアトリスは怪我をしていた、ということだけ。
 カトレアは人質なのか、シャーロアを傷つけた男が首元にナイフを突きつけながら立っている。油断なく構えているその隙のなさは熟練の者だとハイリでも気がつけた。
――確かに人質がいる段階ならアークだって厳しいか
 それが思い違いだと知ることになるのはあと少しのこと。


「それにしても随分だな。わざわざシャーロアを生かして、カトレアが誰に攫われたことを予感させるなんて」
「そうしなければ、リアが戻ってくるとは思っていなかったからな」

 ノハの隣にはリアトリスが木のように立っている。瞳には普段の明るさが一変も伺えなかった。

「まっ、妥当な判断だとは思うが、しかし――勝手に盗まれては困るな」

 アークはその言葉を最期に走り出す。ノハが動く――そうシャーロアとハイリは同時に思ったが、しかし現実は違った。ノハは一歩も動かなかったし、アークもノハへ向かってはいなかった。ノハの方向に走っているのは確かだが、しかし刃が捕えているのは、鋭利な瞳が見据えている先はリアトリスだった。

「え……!?」

 シャーロアの驚きとほぼ同時に響き渡る金属と金属がぶつかり合う音。そして後退するアーク。
 空を舞うのは無数の花弁。だが、花弁は生易しいものではない。その花弁は一つに連結していて、その一枚一枚は鋭利な刃物なのだ。
 リアトリスの手に握られているのは槍、だった。しかし槍と呼んでいいのかは聊か疑問がつくような、鞭のように一つに連結した花弁がついていた。飾りならば可愛いものだが、その一枚一枚が刃物とあっては凶悪な武器にしか見えない。


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