零の旋律 | ナノ

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 シャーロアの足元に具現した青白い魔法陣は魔導そのもの。だが、シャーロアの魔石は砕いた。ならば予備の魔石が存在したのか――否、魔石の輝きは何処にも見られない。魔石を体内へ入れたものだって。その場所が輝くのだ。魔導を扱う以上魔石が輝かないことなんてない。ならば少女は魔族か? 否、少女の瞳は凛々しい青であり、金の瞳では断じてない。ならば少女が今使っている『魔導』は一体何か、混乱が生じる。
 シャーロアの『魔術』は炸裂する。魔石に意識を集中しなくて済む分、魔術の方が使い勝手はいいし、その分の力を魔術にのみ向けられるのだから、威力も上がる。先刻よりも強力な氷の花弁が無数の氷柱を放つ。逃げ道がないほどの広範囲に及ぶ氷の威力は、大地を抉り、無数の氷をつき立てる。猛攻に男たちの三人が倒れる。
 残り三人とシャーロアは瞳を向ける。残っているのは得体のしれないノハ、それに先刻シャーロアを傷つけた男と結界でシャーロアの攻撃を防いだ人物が残っていた。
 油断は出来ない、と思った時だ、嫌な予感に包まれる。今度は判断する隙もなかった。太股を打ち抜く弾丸と少し遅れて太股を鋭い痛みが襲う。横に切られた。シャーロアがそう思う隙もなく地面に倒れた。

「全く、なんだ? その珍妙なのは」

 果たして――声はノハだった。雇った男たちでは埒が明かないと判断しノハが直々に出てきたのだ。シャーロアの魔石を破壊した時同様に。
 シャーロアはすぐに起き上がろうとするが、それよりも早くノハが左足で左腹部を蹴ると同時にシャーロアの身体は転がり仰向けになる。そのまま、ノハの右足がシャーロアの腹部に乗る。

「まぁ、別に興味がないからいいんだけど」

 興味がない、その台詞を聞けばヴィオラあたりであればアークと同種の気配を感じ取ったかもしれないが、シャーロアはそこに気がつけない。痛みよりも何よりもこの状況を脱しなければという思いの方が強かった。
 だが、現状はそれを許してはくれない。乗っているのは怪我をしている右足ならば――とあがこうとした瞬間を見計らったかのように、銃弾がシャーロアの左肩を抉った。悲鳴だけは上げる前と歯を食いしばる。

「逃げるな。下手に抵抗しなけりゃ、命まではとらないさ」
「ノハさん」

 杖を持った魔導師が、遠慮がちにノハへ声をかける。声色は中性的で男か女か判断がしにくい。

「なんだ?」
「その少女は何故魔石を使わずに魔導が使えたのかを知りたいと思うのですけど」

 遠慮がちだったが、その言葉がノハを苛立たせる結果になったのは間違いない。

「そんなもの今は必要ない。それともあれか? 僕の依頼内容に反するつもり?」
「いいえ」

 ローブで素顔は見えないが、ノハの威圧にやや気押されながら魔導師の人物は頭を下げてから貞一へ戻る。もう一人の男が軽く小突いて何をやっているんだよと軽く文句を言っていたのを、シャーロアはぼんやりとみていた。だが、ローブの隙間から見える口元が笑っていたのには気がつけなかった、
 その時、シャーロアにふと案が閃いた。この男に触れば何かがわかると、だがそれを実行しようにも男は当然ながら靴を履いているし、肌を殆ど露出していない。仮に露出している部分があっても殆どが包帯で巻かれている。それでは記憶を読みとれない。可能なのはせいぜい左手くらいだろうが、しかし不思議な動作をすればノハは容赦なく殺さない程度に攻撃してくることは明白だ。どうするべきか、必死に思考回路を働かせる。明確な答えは見つからない。

「カトレア、来い。そうしなければこの少女が死ぬぞ?」
「……わかった」

 ――殺さない保証はどこにもないよ。そうシャーロアが言うよりも早く、立て続けに二回発砲されてシャーロアは意識を失った。

「シャーロア!?」
「殺していない。嘘の約束はしない。それくらいカトレアなら充分に承知の上だろ?」
「……うん」

 自らノハの元へ戻ることが何を意味するか知らないカトレアではなかったが、抵抗することは叶わなかった。もとより抵抗する力を有していないカトレアでは、殴りかかったところで赤子を捻るようなものだろう。


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