零の旋律 | ナノ

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 何が起きた、と理解するより早く腕が危険だと判断して、男に対して足払いをかける。バランスを崩した男の首筋を手とうで気絶させる。
 そのあと、さらに他の男が近づくよりも早く回避行動を取った時、初めて何が起きたのかを理解した。視界に映るのは今までと違う光景。傍観を貫いていたノハが、包帯を巻いていない左手で刃が付属した銃を握っていたのだ。

「全く、何をやっているんだか。だらしない」

 シャーロアは悪寒が走る。あの男は怪我人ととって良い相手ではなかったことをようやっとこの時理解したのだ。身体を動かし乱戦を繰り広げていたシャーロアの、絶え間なく故動く魔石をノハは寸分の狂いなく一発で打ち抜いたのだ。
 魔石を意識し、魔術を行使していたが故に、魔石に魔術を意識出来なくなった時点で必然的に六華も消え去った。ノハの加勢が続くのかと身構えたシャーロアだが、ノハは銃剣で発砲してくることはなかった。だが、残りの人物たちは違う。窮地へと陥っているはずのシャーロアへ下品な笑いを向けてくるものもいるし、ただ成り行きを見ているのか魔導で防御する以外の行動をとらない人物もいる。此処で攻めなければ意味がないと、シャーロアの左右をあっという間に取り囲まれた。カトレアが心配そうに視線を送っているのが、そんな状況でもはっきりと認識出来た。カトレアがいる限り、シャーロアに諦めという選択肢はない。
 拳にナックルを装備した男が走ってくると、シャーロアは蹴りをかます。男が腕でそれを受け止める。シャーロアは手を地面に置き、身体を手で支えながら蹴りの重心を変えて連続的に攻撃をする。男の腕に当たったとき、手の力をばねにして、男の肩に着地する。そのまま、弧を描くように勢いづけて男の肩を蹴る。いきなりの衝撃にバランスを男が崩した隙にシャーロアは背後に着地してから膝を靴の裏側で蹴る。ヒールの部分がピンポイントで当たり男は苦悶の表情を浮かべる。シャーロアはそのまま力任せに男を前へ押し倒して、剣を構えている別の男へ向かっていく。勇ましいその姿に男は一瞬だけ惚れてしまう錯覚を覚えた。だが、男とてこれは仕事だ。ノハという得体のしれない包帯男に雇われた自分たちは仕事を遂行するのみと武器を構える。
 近づくと思われたシャーロアはだが、一瞬視界から消えた。何が起きたと理解するまでに一秒にも満たなかったが、その刹那が致命傷となることを男はよく理解していた。だから、すぐにシャーロアが斜めに屈んだだけだ、とわかったときにはすでに遅く、意識が遠のいて地面に倒れる。重たい音が鳴る。シャーロアは額の汗をぬぐう。これで後半分だと。
 だが、その時、誰かが動いた。誰が動いたのか視界で覆うことが出来なかった。それでも背後が危険だとは経験から判断出来た。咄嗟に振り向いたのが功を奏した。腕を貫通する痛み。赤く染まるそれ。
 シャーロアはすぐに回避行動をとって距離を開ける。今までの男より明らかに早い攻撃。右腕から滴る血。痛みで思うように右腕を動かせない。しまったとシャーロアは思う。ノハを含めて後六人も残っている状況で怪我を負ってしまうのは致命的だ。だが、諦めは存在しない。シャーロアの口元に笑みが浮かんだ。

「貴方たちが何者かなんて知らないけど、でもカトレアは渡さないから」

 冷笑が無言の空気を支配する。

「氷華よ咲き乱れろ!」

 シャーロアの詠唱に驚いたのは、この場の誰もがだった。


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