零の旋律 | ナノ

U


「じゃあ、カトレア行ってこようか」
「うん、お姉ちゃん、じゃあ行って来るね」
「はいはーいです! 今度はお姉ちゃんも是非連れて行って下さいですね!」

 大仰に手を振ってリアトリスはシャーロアとカトレアを見送った。
 扉が閉まってから数秒して見計らったようにエプロン姿のアークが現れた。

「用事なんて、無いくせに」
「うるさいですね―。余計なお世話ですよー」

 ぷいっとそっぽ向くリアトリスをアークはおかしそうに笑う。

「シャーロアなら、いいんですよ」

 リアトリスは落した箒を手にとって、アークから逃げるように階段を上って行った。箒を持っているからといって掃除をするとは限らないのがリアトリスだが、今日はきっと暇つぶしに掃除をするだろう。

「ま、そうだな。シャーロアなら」

 アークは人知れず同意する。

+++
 シャーロアとカトレアは喫茶店でお喋りを堪能してから、リアトリスへのお土産を探す。その結果、ピン止めを一つ見繕い、そしてお互いにプレゼントをし合った。

「これ可愛いよね!」
「うん、素敵」
「カトレアは髪留めとかどう? プレゼントするよ?」
「有難う。じゃあ、私も何か……」

 シャーロアが先導して、その隣をカトレアが歩く。友達であり姉妹のようにも見える光景だった。街で買い物を一通り済ませたシャーロアとカトレアは岐路につくのに、街道を手を繋ぎながら歩いていた時だ、ふと人の気配を感じて――別段、街道に人が歩いているからといって気にすることではないが、明らかに自分たちの後ろをつかず離れずの感覚で歩いているのはおかしいと、シャーロアはカトレアの手を優しく握り締めながら、後ろを振り返った。
 その瞬間、カトレアの表情が一変して強張り、握っている手が怯えたのを、シャーロアは横目で確認した。

「誰?」

 怯えているカトレアを庇って、一歩前に出るシャーロアは強気だ。

「カトレアの昔の知り合いさ」

 十一人の人物たちが威圧的に並ぶ中で、中央にいる人物は聊か異質な風貌だった。顔の右側を包帯で覆い、それは首にまで及ぶ。僅かに露出している右腕や、右手にも同様に包帯が巻かれている。そして、その右半身を庇うかのように身体の重心はやや左に傾いていた。それだけではなく、僅かに包帯の色が変色している部分があり、それが意図的に包帯を巻いているのではなく、怪我をして包帯を身体中に巻いていることが判断出来た。きっと服で隠れている部分にも沢山の包帯が巻かれていることだろう。赤紫色の髪は、前側にいくほどに長めに揃えられている。包帯で隠れていない左目は左に寄った前髪で位置によっては隠れてしまっている。
 中央にいる人物につき従うように、左右に五人ずつ黒を中心とした服に身をまとった人物いた。温厚な雰囲気は一切醸し出していない。一触即発の雰囲気にシャーロアは身構える。

「ノハ……」

 怯えるカトレアが、辛うじて呟いた言葉を、間近にいたシャーロアは聞き取ったが、恐らくノハと呼ばれた人物――中央に立つ包帯の青年にまでは届いていないだろう。

「何用?」

 シャーロアは緊張しながら問う。聊か人数が多い。怪我の具合から見て軽傷ではない青年を除いた所で、十人もいる。果たして――凌ぎきれるか。

「カトレア、こっちへ来い。用がある」
「……どうして、今、さら?」
「今さら? まぁそんなことこの状態を見ればわかるだろう」

 包帯の青年ノハはおかしそうに笑う。それが何処か歪でシャーロアはぞっとする。どうしたら――何があったらこんな笑顔が出来るのか、甚だ理解が出来ない。


- 236 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -