零の旋律 | ナノ

双子再会


+++
『私がカトレアの分もやる、だからカトレアは――』

 厄介払いが出来て良かったのだろうか、そうまでして自分たちが邪魔だったのだろうか。
 そんなことが考えられるのは今、だからだ。当時にそんなことを思う余裕なんて、何処にもない。

 窓から燦々とした太陽の光が溢れ、室内を明るく満たす。今日は昼寝日和だな、リアトリスはそんなことを思っていると、呼び鈴が鳴ったので、扉を開くとそこには金の瞳より希少ではないかと思われる程、目にすることのない光加減で水色にも紫にも見える少女が笑顔で立っていた。

「シャーロア!」

 リアトリスは掃除をしていた――かは怪しいが――箒を床に落として両手を広げてから来訪者――シャーロアを思いっきり抱きしめた。

「久しぶりです! どうしたんですか?」
「近くによったからついでに遊びにきたんだ」
「有難うです―! もうほんとシャーロアはいい子過ぎて泣けてきます」

 大げさな動作をするリアトリスをシャーロアは心から微笑んだ。笑った。同年代の人族の友人は今までいなかったからシャーロアは嬉しいのだ。
 兄であるヴィオラとは違ってシャーロアは人族を根本から嫌っていない。魔族と接するのと変わらずに人族と接する。尤もシャーロアは知らないが、それがヴィオラの願いでもあった。

「ちょっと待っててくださいですー。カトレアを呼んできますので!」

 リアトリスはそう言って別の場所を掃除中――恐らくはリアトリスと違って真面目に――のカトレアがいる所へ走る。
 天真爛漫なリアトリスにシャーロアは苦笑していると、戻ってくるよりも先にアークが顔を出したのだ。恐らく呼び鈴の音がアークの入る場所まで耳に入っていたのだろう。

「よお。遊びに来たのか?」
「うん。駄目だったかな……?」
「駄目なんてことはないさ、ゆっくりしていけばいい」

 シャーロアは一瞬、アークの姿に目を丸くしたが、気にしていい所なのかよくわからないまま問う機会を逃してしまった。シャーロアはアークが戦闘狂であることは辛うじて知っているが、実際にその場面を目撃したことはない。そしてヴィオラやホクシアが畏怖する異常性も知らない。だからこそ、アークがエプロンをつけていることに違和感のあることなのかの区別がつかなかった。兄であるヴィオラが見たら卒倒しそうなものである。
 といってもレインドフ家に入り浸っていればそれが別段珍しいことではないことは、嫌でも判明するのだが。

「じゃあ、俺は昼飯作るのに戻るわ」
「うん」

 アークはそう言って調理をするために戻って行った。入れ代わりのタイミングを図ったのではないかと疑ってしまい程アークとすれ違いにリアトリスとカトレアが戻ってきた。

「シャーロア、久しぶり」

 カトレアが控えめな声で――しかし嬉しさを滲ませてシャーロアへ挨拶する。一卵性とは思えないほど性格に違いがあるリアトリスとカトレアだが、顔は瓜二つである。
二人が本気でお互いの真似をすれば、恐らくは区別をつけることが難しいだろうとシャーロアは思う。騙す意図があれば、誰も見分けをつけられないのではないかとさえ思うほどに二人は似ていた。

「あのさ、もしよかったら買い物にいかない?」
「買い物、いいの?」
「勿論だよ。この間美味しいお菓子の喫茶店を見つけたんだ。此処からだと少し歩くんだけど、どうかな?」
「うん、行きたい」
「あ! 凄く嬉しいですけども、私は用事があるんですよ……」

 がっくりと肩を下ろすリアトリスにシャーロアはじゃあまた今度にする? と言おうとしたが、それよりも先にリアトリスが先刻の落ち込んだ表情から一変して笑顔になった。

「ですので、二人で行ってきてくださいです! 私の分まで山ほど楽しんで食べてきてくださいです! あ、でも食べ過ぎは注意ですよ? 太ってしまいますから」

 普段の調子で笑うリアトリスに、変に気を使って今度にする方が申し訳ないかとシャーロアは判断した。


- 235 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -