零の旋律 | ナノ

始末屋見合2


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 一見すると小型客船のように見えるそれは、しかし内装は非常に拘られていて、豪華客船と紛うほどの華美さがある。そこではお見合いパーティが開かれていた。アークはこういった場に足を運んでみるのも偶にはいいかと、申し込みをしてみたのだ。会費の値段がそれなりだっただけあって料理にも工夫が加えられていて味わい深い。

「芳香なワインはたまりませんね」
「やはりいいものは何度頂いても飽きることはありませんわよね」

 目の前にいる、女性とアークはお見合い開始時から会話を続けていた。当たり障りのない会話だけだが、以前見合いした女性とは違って、此方の身分を気にしている素振りはなかった。会費が高いだけあって、貴族の令嬢も多少なりと参加しており、彼女はその中の一人だった。貴族の令嬢でありながら身分を気にしない気さくさはアークにとって好む所だった。
 しかし、和やかな雰囲気で順調にお見合いが進んでいたのは此処までだった。

「何だ……?」

 突如、女性たちのざわめきが耳に入る。彼女に視線を移すと、彼女もまたざわめきの中心を恍惚とみいっていた。甘美なため息が漏れる。アークは一体何が起きたのかと、視線を移動させると見目麗しい青年がいた――それは刮目するまでもなく、ヒースリア・ルミナスだった。

「(ヒース!?)」

 思わず何しているんだと問いただしたい衝動を抑えながら、冷静に周囲を見回すと、この場全てといっても過言ではない女性たちの視線を一人占めしていた。否、女性たちだけでなく恨めしそうに――もしくは殺気を含ませた憎悪を放つ男性たちの視線も集中している。
 今まで会話をしていた女性は静かに席を退室して、ヒースリアの元へ上品な動きでありながら素早く移動していた。

「……何がどうなってんだよ」

 額を抑えてため息一つ。結局、お見合いは途中から乱入してきた眉目秀麗で、顔だけなら文句のつけようがないヒースリアが女性たちを一人占めする結果に終わった。
 当然のことながら、今回のお見合いで成立したカップルは誰一人としていなかった。運営者にとっても想定外の出来ごとだったに違いない。

 深夜、夜道を歩きながらアークは、月の光に照らされてより一層輝く銀髪を揺らしながら隣を歩く人物――ヒースリアに問う。

「お前は一体何をしにきたんだ!?」

 お見合い中は我慢していた叫びを此処に来てようやっと吐きだせた。

「いえ、暇だったもので」
「暇で俺のお見合いを邪魔したのか!?」
「邪魔したのは主だけではないでしょう」
「お前のせいでお見合いが成功しなかった男に夜道で襲われろ!」
「返り討ちにします」
「一発くらい殴らせてやれよ!」
「嫌ですよ。美貌に傷が付きます」
「顔を殴られるってわかってんのかよ!」

 ヒースリアが、誰かと結婚したくてその場に現れたのならば、誰もがヒースリアの美貌を呪っただけで済んだかもしれないが、ヒースリアはその場をかき乱すだけで、女性たちの好意を受け取ることは決してしなかった。

「つーか、あの場の女性からも夜道で襲われそうだよな」
「人に振られたくらいで襲うなんて、浅はかですね」
「うん。お前のせいだからな」
「私の落ち度はありませんよ。顔だけで選ぶ女性が悪いのではないですか」
「いや、お前が悪い。女性たちが全く問題なかったとは言わないが、お前が確実に元凶だ。そして本当に何故来た」
「だから暇だったからですって」
「お前は俺を結婚させるつもりはないだろう!」
「一生独身の哀れな主、最高ですね。……小説でも書いて差し上げましょうか?」
「止めろ!」
「主人公アーク、彼の生涯は見込んで終わった。何故ならば隣には――」
「お前まで登場すんの!?」
「えぇ、主を徹底的に貶める存在として活躍して頂きます」
「ほんと、楽しそうだよな……」

 生き生きとした表情に、アークは本日何度目かのため息を深くついた。


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