零の旋律 | ナノ

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「そりゃ、強硬手段に出るにはリスクが大きかったので、ならパーティ会場内で殺害するという目的を諦める方がずっと効率的です」

 だからこそ、怱々に諦めた。しかしパーティに行かないという選択肢はカサネの中ではなかった。
 お蔭で、色々な情報を入手することが出来た。オールィクが危惧したように、沢山の人が出入りする場所だ、隙も普段より大きい。

「成程な、一理ある」
「まぁオールィクも馬鹿ですね」
「全くだ」

 苦笑いしながらアークは同意する。相手がカサネ・アザレアであったのなら護衛という依頼をせずとももっと簡単で手っ取り早い方法が――あっただろうに。
 護衛は本来始末屋の仕事ではない。

「自分の命を狙っている輩を“殺せ”そう依頼すれば今後も安泰だっただろうに」
「まぁそうなれば私はあの手この手を尽くして依頼破棄にまで持ちこむつもりですが」

 命を狙われれば、命を狙い返すだけだと。

「依頼料を渋ったのか、お前を甘くみているのか、油断しているのか――何にしろ俺には関係ないがな」

 依頼が終了すれば後のことは何が起きたところでアークの範囲外。関心も興味も湧かないだろう。

「まぁお蔭で私は大した苦労もせずに当初の予定通り、オールィクを殺せそうなので、今回の事は気にしないでおきますよ」
「それより」
「なんです?」
「その服似合うぞ、そうしているとただの少女にしか見えないな」
「……! 私が男だって知っていてどの口がそういいますか!」

 本日二度目の少女呼びにカサネはナイフをアークへ向けていた。
 童顔だという事は自覚しているが、少女呼びされる筋合いも覚えもない。

「ははは」

 アークは笑いながらカサネに背を向け、軽く手を振る。その姿がさらにカサネをイラつかせた。


 カサネは城へ戻ると真っ先に第二王子シェーリオルの自室へ向かった。乱暴に扉を開けて中に入る。上着を脱いで椅子の上にかける。

「おい、シオル。お前の仕立てた服のせいで少女に間違われたのだが、どういうことだ」

 開口一番、機嫌の悪さが一発で伺える。シェーリオルは上着を脱いで、白いワイシャツが全体的に見えるようになったカサネを見て一言。

「そりゃ、そう見えるように仕立てて貰ったし。黙っていれば可愛いよ」
「…………」

 カサネは一気に目を細めてシェーリオルを睨むが、シェーリオルは笑うだけで、気にも留めない。

「ははは、少年に見えるより少女に見えた方が都合いいだろう? でも女物仕立てにはしなかったからちゃんと見ればわかるから問題ないだろう」
「そんな良く見ないとわからない仕組みは求めてねぇよ」
「お前、童顔って言われるのは気にしないのに、少女間違えは気にするのかよ」
「あたり前だろ、第一普段言われる事はないんだから当然だ」

 乱暴に椅子にカサネは座る。シェーリオルはクスクスと笑うだけだ。上機嫌なのだろう。

「まぁまぁ似合うよ」
「だーかーら、嬉しくないっての。特にお前に言われても気味が悪いだけだ」
「褒めているのだから素直に褒め言葉として受け取っておけばいいものを」
「……今すぐお前を抹殺したい気分だ」
「冗談を、それに――その時は抵抗するぜ、全力で」
「……面倒」

 シェーリオルは、未成年ではないカサネにワインをグラスに注ぎ渡す。葡萄酒だ。
 カサネは普段、飲酒することはないが、偶にはいいかとワインを口に運ぶ。
 シェーリオルが好みのワインだけあって味は上質だった。


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