零の旋律 | ナノ

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「逃げるのは簡便な? 始末してくれって依頼を受けているもので」

 アークの邪悪を如実に現しているだろう笑みを想像してラディカルは見なくて済んで良かったと内心胸をなで下ろす。

「始末か……俺が仮に重要な情報を持っていたとしても、その依頼とやらを優先するのか?」
「聞きだせ、って依頼は受けていないからな」

 依頼を受けていれば別だが、依頼主はそんなことを望まなかった。最もアークに刺された依頼主が今さら追加依頼をするとは思えない――追加依頼をしようとしてアークに刺されたのだから。
 アークにとって、依頼の範疇外の仕事であれば、相手が『魔術師』という得体の知らない相手だったとしても殺すのだ。例え『魔法封じ』という得体の知らない機械に関して情報を入手できる相手だろうとも関係なしに。

「ふーん。変な奴だな」
「そうか? 別に是が始末屋の仕事だ」
「……始末屋、そうか。彼の有名な始末屋だったか」

 男はアークの正体を知ると同時に、魔術を無数に展開する。魔術師の魔術基準は定かではないが、魔導師の基準で比べるのであれば、あの男はそこいらの魔導師とは比べ物にならない腕前を誇っている。しかし、シェーリオルの魔導を知っている身とすれば、シェーリオルと対比すれば彼の足元にも及ばないだろうとアークは判断する。そもそもシェーリオルの腕前が異常だ、と言われればそれまででもあるのだが。
 油断すれば、成人男性の体重をもろともせずに何もかも吹き飛ばしてしまいそうな強風をアークはもろともせずに前に進む。距離が徐々に近づいてくる。術の使用者である男は風の力を利用して浮遊した。

「あっ……!」

 それはアークが切り込みを入れた時と同じタイミングで、アークの攻撃は男にかすらなかった。
 浮遊された所でアークは二撃目を加えるだけだと、レイピアのような短剣を手元で遊ぶようにクルリと一回転させてから構える。
 男はアークから攻撃を受けないため、さらに魔術を展開する。背後に現れる白銀の魔法陣――だが、その効果が発動することはなかった。突如として肩から血飛沫があがる。突然の出来事に痛みの覚悟もなかった。迸る痛みのせいで術の効果が解けてしまった。男は重力に従って落下する――そこを見逃すアークではない。男は対処方を考える猶予すら与えられずにアークが止めを刺した。


+++
「全く、人の手を煩わせるなんていい度胸していますよね」

 見晴らしのいい場所で、ヒースリアは愛用のマスケット形状の銃を仕舞い、その場を後にした。


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