零の旋律 | ナノ

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「ちっ、めんどくさいのが……」

 響く悲鳴に、今まで装置しか眼中になかった男がようやっと侵入者の方を振り返った。
 既に此方側で残っているのは二人だけであり、彼らも今にも負けそうなほどボロボロだ。戦意を失っていないことが奇跡と言えような状態である。
 圧倒的な実力差に男は舌打ちする。
 ――状況が動くのが早すぎる。
 魔法が使えないことが噂になれば、リヴェルア王国全体が動くのは目に見えていた。
 それでも、この場所を的確に――自分たちに気がつかずに――当てられるとは予想外だった。
 時計台が怪しいと踏んだのならば、偵察をするのが普通だろうし、魔法が封じられている以上、人知れず偵察をするのは難しいだろう、何せ上から下の状況を見渡せるベストポジションを此方は陣取っているのだ。だが、彼らは自分たちの存在を気がつかせることなく――魔法封じを強制的に解除した。何のまいぶれも音もしなかった。突然装置が壊れたのだ。赤く輝く魔石に似たそれが粉々に砕け散った。あたりをつぶさに観察すると銃弾が見つかった。一体何処ろから狙撃してきたか検討もつかなかった。何故なら狙撃の可能性がある場所は常に見張らせていた。だからこそ――狙撃の可能性がないと判断した所から相手が狙撃したことに他ならない。
 狙撃されたてすぐに三人の男がやってきた。彼らの中に狙撃した本人がいるのかは定かではないが、どちらにしろ並はずれた技術も持つものに違いない。事実、決して弱くない仲間が三人の男の手によって倒されてしまった。三人の男は未だ無傷だ。

「一体何故此処がわかった」

 男は渋々と地面に置いてあった杖を手に取る。

「え、色々と調べたら此処が怪しいからだろ?」

 アークの答えに、しかし納得はできない。

「この街の人は全員魔族が犯人だと思い込んでいたが?」

 だからこそ、時計台が安全だったのだ。時計台に魔族はいない。

「いや、だって俺たち別に此処の街出身じゃないし。第一魔族此処にいるし」

 そう言ってアークはサネシスを指差す。人を指差すなとサネシスは位置を微妙に移動して指差された位置から外れる。

「それも……そうだが、しかし魔族の味方を人族がするのは解せぬな」
「いや別に俺、味方じゃないし」
「……じゃあなんで一緒にいるんだよ!」

 男はため息をつく。どうやら紫かかった黒髪の青年とは会話がかみ合わないようだ。

「まぁいいや。ならば一つ。狙撃をしたのは誰だ」
「……そういや何処にいるんだ?」

 アークは何時ものことだから気に止めなかったが、一向にヒースリアがこの場にやってくる気配がない。大方、理由は『階段を上るのが面倒だったので』だろう。気にしたら負けだ。

「あーもういいや、お前ら何者だよ」
「そっちこそ何者だ」

 アークでは会話にならないとサネシスが口を挟む。この男が集団のリーダーな可能性が高い。態度や身構え方から強さがにじみ出ている。魔法封じの装置に関して詳しい情報を持っているだろうし、魔術師の可能性もある。

「何者って、魔導師――だろ?」

 含みを持たせて答えた男の杖には魔石が付着してある。


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