零の旋律 | ナノ

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 時計台のやや古びた外装とは裏腹に内装は頑丈な作りで、外装とのバランスが聊か取れていない。内装だけを最近改装したのは一目で判断出来た。アークが先頭を走り、そのあとにラディカルとサネシスが続いて階段を駆け上がる。薄暗い階段から一変、明るい場所へ出ると十人の集団が慌ただしく撤退の準備をしていた。

「魔族!?」

 足音に振り返ると、金の瞳が視界に入り声を上げる。魔族だと隠す必要がないと判断していたサネシスはフードを外しているため、一目で魔族だと相手は判断出来る。
 どう見ても――魔法通じの装置を破壊した一味であることは一目瞭然だ。十人の集団は一人を除いて武器を構える。彼らを排除しないことには安全に撤退することは不可能だ。

「俺が魔族だということは関係ない。お前らは一体何者だ?」
「わざわざ答える義理なんてないだろう!」

 集団の一人が叫ぶ。その中で、魔族の侵入に興味がないのか、一人だけは魔法封じにかかりきりで振り返ることすらしない。恐らくは撤退――もしくは復元の準備をしているのだろう。慌てることなく冷静だ、とサネシスは分析しながらも、再び魔法を封じられては叶わないと踏み込む。ボアのついたコートはサネシスが踏み込むのと同時に揺れた。

「何が目的何だか、知らないっすけどさ」

 ラディカルは素早くナイフを両手に構えて、左手に握ったナイフを遠心力をつけて投げる。相手へ向かって回転しながら一直線に向かう。ナイフの標的となった人物は、指先で六坊性を描き魔導を展開して結界でナイフを弾いた。結界に弾かれたナイフはラディカルの元へは戻らず地面を抉る。

「……ふーん」

 それを横目でサネシスは確認する。見た所魔石が輝いた位置に魔石は存在しなかった。それはつまり体内へ魔石を入れた者だろうと認識すると同時に、彼は魔術師ではないと判明する。魔術師は魔石を所持して、魔石を光らせたふりをして魔術を放つことはあっても、体内へ入れるだなんて馬鹿な行為はしないし、した所で意味はない。
 ならば、この場にいるものは魔術師の思惑に踊らされた魔導師か、もしくは魔術師が一人くらい混じっているだろうと推測し、その推測が正しければ、自分たちの侵入に見向きもせず装置を第一に考えている男だ、と予想を立てる。
 最も当たろうとも外れようともサネシスは皆殺しをしようと考えている以上、余り意味はないことなのかもしれない。

「なんでお前ら、魔法封じなんて!?」

 ラディカルの問いかけであり心からの叫び。ナイフは回転する。結界に弾かれて転がったナイフをラディカルはナイフで攻撃している隙に拾う。そこへ火の渦が現れる。ラディカルはナイフを掴んだまま、重心を腕に込めて倒立をするような体制をとったまま、身体を倒して火の渦を交わす。

「魔法なんて封じたって意味はないだろう!?」

 問いかけに答える者も、答えてあげようと思う者もいない。
 ラディカルにとって魔法を封じることの意味や必要性は知りたくてたまらない。何故、そのようなことをする必要があるのか、本人たちの口から聞きたかった。
 そんなラディカルの思いとは裏腹に、アークは無言で――だが、口元に笑みを浮かべながら集団の中心で乱戦を繰り広げていた。一対多数でも全く苦戦がみられない。むしろ多数の方がアークに押されている。アークの手には相手から奪った杖が握られていた。本当にどんな武器でも人並み以上に扱えるのだな、とラディカルは思うと同時にアークが拳銃を所持していることは先刻耳にした。ならば、何故自分の武器を使わないのか――それが疑問だった。


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