零の旋律 | ナノ

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「そっか、なら仕方いないっすね」

 アークが狙撃出来ないのなら、極力相手に気がつかれないように近づくしかないと思い始めた時だ

「俺は無理だけど、ヒースなら何とかなるんじゃないのか?」

 アークの言葉に視線が集中する。ヒースリアはこれ見よがしに舌打ちをした。明らかやる気は零だ。いっそ清々しいとすらサネシスは思い始める。

「無理というのは癪ですし、その程度のことが出来ない主と同程度に思われるのは癪ですから、出来ますとは答えますが、態々そんなことに私の手を煩わせたくありません」

 そこは他人の手じゃないのかよとラディカルは言いかかって止める。

「出来るならやれよ」

 サネシスの好戦的なものいいに、ヒースリアは嘲る。

「全く、馬鹿と仕事中毒と魔族とは大層な組み合わせですね。主に特別手当を要求します。それと、狙撃銃でなくてもその程度を可能に出来ない主の技術の低さに嘆きます」

 毒を吐いてからヒースリアは挑発に応じるようにコートを翻しその中からマスケット形状の銃を取り出した。滑らかな白は傷一つなく新品と紛うほど手入れが行き届いている。白銀の縁取りがなされたそれは造りが精巧でコレクションとして高く売買されていても不思議ではないほどの美しさを放っている。銃弾が入っているのか確認することもなく、ヒースリアはそれを軽々と前に突き出しヒースリアだけが確認できる魔石に似たものへ焦点を合わせて――引き金をあっさりと引いた。滑らかで無駄一つない優美な動作、何より何故か発砲音が全くしないが故に引き金を引いたのまでは確認したし、弾丸が風を切るのをかすかに視界で捕えたがそれは本当に発砲したのかはヒースリアの言葉を聞くまでサネシスは確信出来なかった。

「ご希望通りに当たりましたよ」

 弾は目標からそれることもなく命中し、魔石に似た存在は粉々に砕け散った。その装置が本当に魔法封じであり、魔石に似たものが魔法を封じる要だったのかを確認するため、サネシスは慌てて魔法を発動させる。手の平に五センチサイズの魔法陣が輝きそこからが生まれ龍のような形を作り出す。ラディカルも続いて眼帯を外して炎をナイフにまとわせるか試すと、炎は普段通りナイフにまとった。サネシスが魔導も使えるかどうか確認しろとアークに命じると渋々ならが魔石を取り出して魔導を扱うと、魔石は輝き魔導も無事に発動された。

「どうやら、あれが装置の要で間違いなかったようですね」

 涼しい顔をして告げるヒースリアに

「サンキュ」
「うわーすげぇ、ほんと腹黒執事何者っすか」
「アンタ本当……何者だよ」

 それぞれの感想を口にする。これで装置を移動される心配もない。仮に移動されても――要を破壊した以上、すぐに再起動することは出来ないだろうしその時間を与えなければいいだけだと一斉に走り出す――ヒースリアを除いて。ヒースリアは滑らかな肌触りのマスケット形状の銃を仕舞う。

「全く、主だけでも手に負えないほどに好戦的なのに、二人もプラスされるとは世の中空しいですねぇ」

 自身も好戦的な性格であることは棚に上げて平然と口にするヒースリアだった。


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