零の旋律 | ナノ

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「魔石だったら、宙に浮かないと思いますよ? 魔法封じを使っているのですし、あの魔石と似たものは僅かながら発光しています。魔法封じの術を行使していると思うのは当然でしょう」

 サラリと説得力のある言葉だが、しかしサネシスにとって問題なのはそんなものは“見えない”ということだ。おおよそ常人の視力では識別不可能だ。

「アンタは見えるのか?」

 サネシスはアークへ話を振るが、首を横に振る。

「いいや。俺も時計台には不自然な機械がある所までは確認出来るがそれ以上は無理だ」

 つまりこの場で細部まで状況が確認できるのはヒースリアしかいないのだ。魔石に似たものの大きさが装置と同程度のものであればアークも確認できただろうが、しかし小石程度の大きさしかない。幾何学模様にいたってもアークは殆ど認識出来ていない。

「視力がいい執事が見えるんなら、恐らくその魔石っぽいのが魔法を封じているってことっすよね? ならそれを破壊してからあの場所まで行くのがベストじゃないっすか?」

 ラディカルの提案にサネシスは当然の問題を挟む。

「どうやって壊すんだ? 魔法は使えないぞ」

 魔法が使えれば、サネシスは容易に破壊することが出来た。しかし現状ではそれは許されていない。

「今にも死にそうなお兄さん、狙撃とかできないのか?」

 その辺にあるものであれば、何でも武器に出来るアーク・レインドフであれば当然銃の扱いにもたけているだろうとラディカルは推測していたし、アークが銃を使っている姿を目撃したこともある。

「……此処から俺にしてはあるのかどうか確認出来ないそれを打ち抜くのは難しいな。それに手持ちも拳銃しかないから狙撃には適さないだろうし……失敗したら勘付かれて相手に対策を練る時間を与えるだろうし」

 その答えは予想外でラディカルは驚いたが、しかし当然と言えば当然だ。何せアークは魔石に似た存在を確認出来ていないのだ。見えないものを打ちぬけと言われても困る。時計台がせめて後数メートル低ければアークも対象を打ち抜くことが可能だったのだろうが、時計台の全長を縮めることは出来ない。
 ラディカルは知らないが、そもそもアークは狙撃はほとんどしない。勿論、“何でも武器にする”始末屋であるから、狙撃も勿論可能だし、重火器類の扱いは得意だ。だが、だからといってアークが好むかと言えば話は別だ。拳銃は問題ない。接近戦でも使うし、相手と刃を交える時の武器として使用する。だが、狙撃は違う。相手を一方的に殺す。勿論狙撃銃は接近戦に不利というだけで使ってはいけない決まりはないが。静かに狙いを定めて対象をマークし、離れた場所から引き金を引く。ほとんどは相手が狙撃に気がついた瞬間に勝負は決している――それに、狙撃が出来るからと言って、銃を専門として扱うプロには狙撃の技術は及ばない――戦闘狂であり、血肉沸き踊る戦いを求めているアークにとっては好ましい手法では到底なかった。安全地帯から相手を殺すなど面白みがないと。自らの肉体を駆使して戦わない魔導もまたしかりで扱えはするが好んではいない。だからこそ、アークは進んで魔導と狙撃はしないのだ。


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