零の旋律 | ナノ

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 アークとラディカルが仕入れてきた情報を参考にしながら、ヒースリアとサネシスが検討をつけた場所へ向かう。街からはやや外れた時計台だ。よくよく目を凝らせば、人が時計台の中にいるのがわかる。一人ではない。複数いる以上あまり近づきすぎると怪しまれるため、かなり距離を取ってある。これ以上近づけば、人影があると警戒されても不思議ではないと、最初からヒースリアとサネシスもこれ以上は進まなかった。
 元々街外れの時計台は滅多に人が通らない場所で、何かするにはうってつけの場所だ。

 その場所に街の人が何かあると思わず、何の調査もしていないのは、彼らは最初から魔族が犯人だと決めつけているからだ。そしてその怒りの矛先は魔族へ向く。
 だからこそ、誰も人が近寄らない場所を気にしない。何時も誰もいない場所なら、今日も誰もいない場所なのだ。
 異変とはそうと感じなければ誰も異変だとは思わないし、異変が起きても普段と同じだと思えばそこは疑わない。

「よし、突入して殺せばいいか」

 アークの決断は早かったが、それをラディカルが肩を掴んで止める。この性格が吉と出る時も勿論あるのだろうが、一緒に行動している身としては冷や冷やしてたまったものではない。

「殺る気満々のお兄さんストップ!」
「そうですよ、人殺ししか頭にない主。恐らく時計台にある街を一望できる展望台に置いてある機械と思しき装置が魔法封じなのでしょうが、主が猪突猛進している間に運ばれたら終わりですよ?」
「ぐ……」

 言われてみればそうだったと、アークは動きを止める。
 目を凝らせば展望台には恐らく不要であろう謎の装置が隙間から確認できる。この位置からではある、ということ程度しか確認できないが、移動すれば全貌が確認できる場所もあるだろう。しかし、見えやすい位置へ移動するということは相手に感知される可能性が格段に上がる。そんなリスクを犯すくらいなら、最初から突撃した方が、効率いい。
 何が起きるかわからない――戦闘に限定するならば、話は別だが――現状では用心することに越したことはない。相手は魔術師と推測されるのだ。魔術師であれば相手は魔法を行使することが可能と予想出来る。それだけで全ての面において相手の方がアドバンテージを持っている――魔法封じがある限り。

「俺の視力じゃ、なんかぼやーと変なのが見える程度なんだけど」

 ラディカルは日差しが邪魔しないように、手を額に当ててから目を細めて凝視しているが、ぼけやけ何かがあることくらいしか判断出来ない。それが怪しいか怪しくないかなどの区別はつかない。

「あれを怪しくないという人が入れば、その人の神経を疑いますね。あの場所に、幾何学模様の描かれた装置を普通は置かないでしょう? 装置の上には魔石と似た別の物体が宙に浮いていますし」
「何故魔石じゃないとわかる?」

 サネシスの言葉にその程度も理解できないのですか、と嘆息してから答える。一々言葉が余計で且つ人の癇に障るとサネシスは頬を引き攣らせる。


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