零の旋律 | ナノ

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 全員で同じ行動するよりも、分かれて調査した方が効率いいと、二手に分かれることになった。アークとヒースリア、ラディカルとサネシスで組むのが普通だったが、ヒースリアが常に主の顔を見ていると心身ともに疲れますと言い出した。
 それに加えてサネシスが何気なしに、魔族と人族で別れた方が効率的なこともあるかもな、と呟いた結果アークとラディカル、サネシスとヒースリアの組み合わせで行動をすることになった。
 ヒースリアがさりげなく舌打ちをしたのは誰も聞かなかったことにした。誰と組もうとヒースリアが舌打ちするのは目に見えていたからだ。内心サネシスはアークと組めなくてため息をつく。自分で言い出したこととは言え、組のならアークが良かった。どうにもこの執事は得体が知れない。

 ヒースリアとサネシスは南〜東側を担当することになった。魔族であるサネシスは人目につかないようにフードを深く被るが、時々魔族だとばれる。
 アークが男を刺したことを目撃した人物たちは勿論サネシスが魔族だと知っている。そう言った連中は遠目に見て殺意を向けていたが、向かってくることはなかった。
 あの場にいなかった者が魔族だと気がついた場合は、好戦的な目を向けられたり、武器を持って襲いかかってくる輩がいたが全て返り討ちにしていた。ヒースリアはその様子を見ても何も言わない。
 アーク同様、魔族だろうが人族だろうがどちらでも構わない雰囲気が漂っている――否、アークよりもそれが顕著に漂っているようにサネシスには思えた。けれど、アークとヒースリアでは考え方の根本が違うようにも思えた。それが何なのかは推測もつかない。

「なぁ、アンタは本当に何者だよ」
「執事ですけど、何か?」
「いや、執事じゃないだろ」
「詮索はお勧めしませんよ。どの道――」
「お前はアーク以上に、人族とか魔族とかどうでもいいって感じたが?」

 途中で会話が重なる。どの道――何と言おうとしたのか、サネシスは推測がついた。恐らく、どの道何も変わらないと言おうとしたのだろう。

「そう貴方が感じたのならばそう、ということでしょう」

 誤魔化すつもりもないが、答えるつもりもない。ヒースリアが自身について聞かれる時に返す返答は大抵是だ。

「ふぅ。俺は魔族だ、今此処で襲いかかられると考えたことは?」
「微塵もありません。第一貴方が私をどうこう出来るとでも思っているのですか?」

 自信過剰ともとれる発言をさらりと答えるヒースリアに、聊かサネシスは苛立つ。

「……大層な自信だな。試すか?」
「結構。私は主とは違って戦闘狂ではありませんので」
「アンタはなんでアークの執事なんてやってんだ? それっぽくもないくせに」
「何かの因果ですよ。全く主の横暴さにもついていけません」
「……ひょっとして負けたとか?」
「そんなに知りてぇのか?」

 一気に口調の悪くなった執事にサネシスは苦笑するしかなかった。実際に負けたのか、それともプライドが高くて冗談でも負けるという単語を嫌うのかは定かではないが、とにかくその話題はヒースリアの琴線に触れることは間違いないようだった。
 事実、口調が悪くなっただけでなく、よくよく手元を見ると銀色の拳銃が握られていた。物騒だなとサネシスはヒースリアへの認識を改めた。

「遠慮しとくよ」
「そうですか、知りたくなりましたら何時でもどうぞ」

 いつもの口調に戻っているが、口元は引き攣っていた。見た目と丁寧さは会っているのに、言動や内面は見た目と全く吊り会っていないように思えた。それでも違和感を覚えさせないのは、ヒースリアの外見故か、そう考えるとつくづく美形はお得だなとサネシスは苦笑する。

「アンタって結構執念深いんだな」

 ヒースリアが文句をつけていた気がしたがサネシスは聞かなかったことにした。聞きたくないことを聞かないようにするのは特技の一つだ。


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