零の旋律 | ナノ

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「短気ですねぇ」
「誰のせいだと思っているんだ!?」
「主のせいですか?」
「お前だ! 勝手に責任転換するな」

 主が誰だか知らないが、今までの流れからして、主とは紫かかった黒髪の青年だろうことは容易に想像がつく。

「盛り上がっているとこ悪いけど、眼帯君本当に何しにきてんの?」

 放置していたら、此処が戦場になる気がして――アークとしてはそれもありだが、しかし依頼が最優先事項だ――話を纏めに入ることにした。

「何処をどう見たら盛り上がっているんすか。魔法が使えないからっすよ」

 その言葉に、サネシスは目を丸くする。『魔法』と確かにラディカルはいった。それはラディカルが半魔族だということをこの二人は知っていることに他ならない。
 半魔族は魔族同様――否、それ以上に魔族であることを隠す傾向が高い。運が良ければ半分の瞳は普通の色をしているのだ。最も半魔族でも両目が金色の者はいる。

「あぁ。成程。やっぱ“魔法も”使えないんだ」
「予想してたっすか?」
「大体名。魔導も使えないし。魔導が使えないってことは当然魔法も使えないんだろ?」
「あぁ」
「この街の外では魔導が使えるから、やっぱこの街になんかあるんだろうなぁ」
「……その原因を魔族だとお兄さんは疑っていないんすか?」
「魔族が魔法を使えなくしてどうするんだよ。魔族のアドバンテージはひとえに、『魔法』と『魔物』だろ?」
「正しくは『寿命』も入るけどね。まぁだから魔法を使えなくすることに対して魔族は得をしない、故に魔族じゃないってことにするのが普通なんだけどね……」
「だが、人族は短絡的に魔族の仕業だと決めつけた」

 眼帯で金の瞳を隠しているラディカルとは違い、両目が金の瞳なサネシスが会話に加わる。
 あの後。何度かヒースリアに攻撃を仕掛けたが、悉く――しかも華麗に交わされてしまったため、面倒になった。それと同時に学習した。この執事は無視するのが一番だと。しかし、無視をするのもそれはそれで大変ではあるのだが――何せ言葉の一つ一つに毒が籠っている。

「まな。人族の――クセルシア街の言い分としては、人族がそうすることにメリットなんて存在しないってことだけどな」

 人族にとって魔石は欠かせないものであり、それを使えなくすることに一体何のメリットがあるというのだ、と依頼主は叫んだ。それは魔族にも言えることだが、魔族に関して依頼主は別の解釈を見せた。魔族は自分たちの力を人族が使っているのが許せないから使えなくしたのだと。一方的な視点でしかないが、それは魔族を道具としか見ていない人族や、忌み嫌っているものたちを説得するには充分過ぎる内容だった。魔族よりも人族がすることにメリットがないことを証明できればいいだけなのだから、そうすることは容易だ。

「まぁな。人族にもメリットがないのは認める。だが、ただでさえ絶対個数の上では人族の足元には及ばないのに、魔族が魔法を封じたらそれこそ自分で自分の首を絞めるようなものだろう」
「だろうな。最悪『魔法』を人族が封じて武力行使で一斉に出れば、同じ条件下である以上、多勢に無勢で魔族に勝ち目は余程のことがない限り無理だ」
「所で、アンタからは魔族に対する殺意を感じないが何故だ」

 ラディカルとは違い、この青年は百%人族だ。なのに、アークからは殺意も敵意も興味も何も感じない。ヒースリアの方は悪意が多数を占めていて判断に困ったが、しかし殺意や敵意とは違うと結論づけた。


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