零の旋律 | ナノ

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「な、なんなんすか」

 静寂な中、ラディカルはようやっと言葉を口にする。時間にして一分もたっているわけでないのに、時間の流れが遅く感じた。
 繁華街なのに閑散と化し、この場に留まっているのはアークとヒースリア、ラディカルとサネシスしかいなかった。この状況で且つアークであれば、道端で寝ていても誰も咎めないだろう。

「当然でしょう」

 アークの代わりにヒースリアが答える。

「全くの茶番、面白かったですよ。それにしても彼は自分を賢いと思いあがっている馬鹿ですね、ただの馬鹿よりもたちが悪い。主は仕事を愛しているのに、その仕事を侮辱されれば牙をむくことくらい容易に想像できるでしょうに」

 おかしそうに笑う。それが様になっているものだから、ラディカルは余計に寒気を感じる。あの場でただ一人だけだ、アークの行動に対して笑いをこらえていたのは。常軌を逸していると言葉にはせずラディカルは思う。

「彼の貧相な頭には同情をしますね。それで、貴方は何故こんなところに? ……まさか」
「何」

 その通りと答えると後々弄られることが目に見えていたラディカルはあえて答えない。

「まさか、彼氏がいるとは思いませんでした」

 ラディカルのナイフは、ヒースリアに向かって勢いよく回転し襲いかかる。しかしヒースリアは交わすわけではなく指と指の間で器用に受け止めた。

「ふ、ざ、けんな! なんだお前のその発想は!? つーか、俺は男だ! 女だと思っていたわけじゃねぇよな!」

 あからさまな悪意に、ラディカルが後一秒遅ければサネシスがヒースリアを殺しにかかっていたことだろう。敵意でも殺意でもない、ただの悪意だ。悪戯心満載でしかもたちが悪い。

「何処をどう見たら貴方が女性に見えるのですか? 世の女性に失礼ですよ。煮え湯でも飲まされてきたどうですか?」
「てめっ」

 もう一つのナイフを投げたが、それも受け止められてしまった。それも同じ手でだ。

「だー! むかつく、この執事ありえねぇ!」
「私の素晴らしさがわからないなんて、本当にかわいそうな人ですね」
「お前実は人間じゃねぇだろ! 悪魔からの使いだろう!」
「……どうしましょう主。彼はついに妄想壁が発病したみたいです」
「今にも死にそうなお兄さんに話を振るな―!」

 依頼人を差した時のような雰囲気はすでになくなっているアークは返答に困って返事をしなかった。

「私の問いかけを無視するなんて何様何ですか」

 ヒースリアは毒づいていた。サネシスはキリがないと、とりあえず――ヒースリア殺害計画は後回しにして何者か問うことにした。ラディカルが腹黒執事と言っていたことから、執事ではあるのだろうが、かなり疑わしい所だ。

「自分のことを名乗らないで他人から名乗りを求めるなんてとんだ礼儀知らずですね」

 一笑されたため、先に名乗ることにした。誰に一笑されたかは言うまでもない。

「サネシスだ。名乗ったんだから教えろ」
「ヒースリアです」
「で何者だ」
「貴方が何者かを知らないのに、私に正体を求めるとは本当に、魔族の教養の低さを肌で実感します」

 サネシスは我慢の限界だったので、ヒースリアへ蹴りを一発かまそうと動いたが、動いたのか怪しい程音を感じさせずヒースリアはその場から移動して蹴りを交わした。


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