零の旋律 | ナノ

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 ラディカルとサネシスが街へ足を踏み入れると、フードを深く被ったサネシスを怪訝に思うものはあまりいなかった。他人に構っている余裕はないのだ。
 魔導が使えない現状が続く限り、生活の面にも影響は出るし、今後このようなことが続けばそもそも生活が成り立たなくなる危険性が残っている。一刻も早く原因を――魔族を排除したい、そんな思いが如実に伝わってきて、ラディカルは拳を握りしめる。この空気は嫌だった。
 魔族が原因ではないのに、魔族が原因だと一方的に決めつけて、他人の理由も聞かずに排除する。
 初めての光景ではない、今までだって見たことがある。海賊の船長を目指している時だってそうだ。魔族だと知れば掌を返す。だから魔族だとばれないように眼帯で全てを偽った。
 サネシスが苛立っているのをラディカルは感じ取っていた。サネシスは自分以上に深く、魔族として生きてきて、そして魔族の現状を知っている。

「たく、どいつもこいつも魔法が使えたら皆殺しにしてやったのに」

 物騒な言葉に込められた思いは本物だ。魔法が使えなくてもある程度なら殺すことは可能だ、けれど――それでは時間がかかってしまう。その間で“仲間”に何かが起きたら困る。
 ラディカルは、サネシスの発言に魔法が使えなくて良かったと胸をなでおろすことはしない。けれど、皆殺しにしてほしいとも思えなくて、心境は複雑だ。
 人族と偽るのではなく、魔族として暮らしてきたら、恐らくは同じことを思うとラディカルは直感で理解している。

「何も……魔導が使えない以外の異変は見られないけどなぁ……」

 ラディカルは呟く。繁華街の中心まで来たが、特に何も変わったことを認識することはできなかった。タイルが敷き詰められた道が先まで続いているだけだ。
 サネシスは街の何処かで魔法が使用できるのではないかと考え、ずっと魔法を発動している状態にしていたが、一向に魔法を発動できない。

「確かにな」

 魔法は使えない。かといって、異変を感じるわけではない。何が起きているのか、未だに検討もつかない。
 繁華街は人通りが当然多い、サネシスとラディカルが安全に調査出来たのは此処までだった。

「ま、魔族がいるぞ!」

 誰かが叫ぶ。ラディカルは咄嗟に身構える。こういう時の人は素早いとラディカルは自嘲する人が一気にサネシスとラディカルを取り囲むように集まってきた。

「金の瞳だっ! 魔族が何の用だ!」

 人々は思い思いに叫ぶ。その言葉には憎悪しか溢れてこない。当然だ、クセルシアの人々は今回の犯人を魔族だと思いこんでいるのだから。

「そこの少年は魔族に脅されて、この街を案内する羽目になったに違いない!」
「非道な魔族め! 少年を離せ」

 そして勝手に物語をねつ造された。ラディカルは思わず反応に困って呆然としてしまう。サネシスはいきなりのことで、笑っていた。忌々しく、けれどおかしそうに。

「はっ、勝手に都合のいいようにストーリーを作り上げてんじゃねぇよ」

 侮蔑的な笑みを浮かべながらサネシスはフードを下ろす。ラディカルとは違う両目とも金色の瞳は偉く挑戦的だ。

「人族風情が、ずに乗るな」

 あからさまな挑発に、人族はそれでなくとも殺意や敵意に満ちているのに、それが一気に倍増する。


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