零の旋律 | ナノ

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「あんた、ホクシアと一緒にいたお兄さんか」

 ホクシア、その言葉に青年は益々この少年のことがわからなくなる。あの時、誰もホクシアの名前を呼びはしなかった――呼んだとしても自分ぐらいなものだ。けれど、その声がこの少年まで届いたとは到底思えない。それなのにホクシアの名前を知っているということは、青年のあずかり知らぬ何処かで接点があるのだ。

「少年、あんたは?」
「ようやっと、話を聞く気になったんすか、お兄さん。俺はこういうものっすよ」

 相手が魔族ならば隠す必要はないと――稀に魔族にも半魔族を嫌うものがいるが、この青年は違うと願って――眼帯を外す。
 眼帯から現れるのは、オレンジ色の瞳とは違う、金色。魔族である証だ。
 青年は絶句すると同時に納得する。半魔族であるのならば、ホクシアのことを知っていても不思議ではないし、魔族に対して殺意を抱かないのも納得できる。むしろそうでないと説明がつかないくらいだった。

「成程。少年はハーフだったか」
「そういうことっす。あと、俺は少年じゃなくて二十五なんで」
「魔族に年齢はあまり無意味なものだと思うけれどな」
「人族の社会にいれば、そうもいってらんないさ。さらに言うなら名前はラディカル・ハウゼンって言うんで、ラディカルでもラディーでも好きな方を呼んでくれるといいかな。お兄さんは?」
「サネシスだ」

 魔族の青年サネシスは、ラディカルに対して人族に対する警戒を解いていた。相手が半魔族であるからだ。最もサネシスは半魔族に対していい感情を抱いているわけではないが、それでも半魔族として生まれてきた彼らが悪いとは一切思わない。後々のことを考えないで自分たちの愛を信じた彼、彼女らがいれば、その人物たちに対して思うところは多大にあるが。ラディカルは眼帯をもとに戻す。

「サネシス、やっぱり魔族はこの街に踏み入れないべきだと思う」
「……いいや、この街は特に許せない。特に猶予がないんだ」
「猶予?」
「あぁ。ホクシアのことは知っているんだよな?」
「何度か、出会ったことも共闘したこともある」
「なら、いい。お前はどうして此処にいる?」

 会話をサネシスは手短に澄ましていくが、ラディカルにわかるよう話してはいないため、会話の糸が今一つ掴めない。

「偶々街へやってきたら魔法が使えないって噂になっていたから、原因を探ろうと思ったんすよ」
「なら、丁度いい。協力するか?」
「願ってもいないことだ」

 どんな異常が起きているにしろ、自分一人で対処するには聊か荷が重すぎるとラディカルは思っていたところだった。

「なら、行こう」
「了解っす。でもいいんだな? 魔族だってばれても」
「構わない、邪魔をする人族がいるなら殺すだけだ。そうでなくとも猶予がないんだからな」
「さっきから気になっているけれど、猶予ってのは? もしかして」

 一つの残酷な推測が浮かぶ。

「そのもしかしてだ。人族は魔導が使えなくなった原因を魔族だとみなすだろう、そうしたらこの街にいる魔族はどうなる? 今まで手が出せなかったが――今度こそ」

 そこには壮大な決意が含まれていた。例えどんなことをしても今回は何かをなす。その思いがラディカルには鮮明に伝わってきた。
 爛々と照らす太陽の光が少しでもサネシスの瞳を誤魔化してくれないだろうか、ラディカルは雲ひとつない晴れ晴れとした空を眺めて思う。


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