零の旋律 | ナノ

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「それにしても本当。なんでだろうな」

 アークは首を傾げる。この街の人々は混乱しているが、アークにいたっては興味を抱いている様子であった。魔石の効果がなくなったのか――否、それだと、街から出たら使えることに説明がつかない。推測しようとも、原因は一向に不明だ。最も、その興味も依頼の前では霞んでしまうから余り意味はないことかもしれない。
 アークにとって、魔石とはあれば便利なものだが、別に使えなくてもそこまで困るものではなかった――少なくとも、街で混乱している人々よりは確実に。

「あぁ! なんでだよ! 魔族を殺したら魔導が使えるようになんじゃなかったのかよ!」

 街の入り口は、広々としていて、街の真ん中には時々花壇があった、そこを歩いて繁華街の方へ足を踏み入れると人々は魔族に対する行き場のない怒りで満ちていた。

「どうしんだ?」

 アークが怒りで見ている市民に対して話しかける。怒りを共有してくれる人が、話を聞いてくれる人がいた喜びからか、饒舌だった。

「昨日、俺たちの魔導を使えなくした魔族を処刑したんだよ。なのにまだ魔導が使えねぇンだ」

 なら、それは魔族の仕業ではないですよ――とヒースリアは言おうとして寸前で言葉を飲み込んだ。この場で火に油を注いでも面倒事になるだけなのは目に見えていた。最も、彼らが自分に傷一つつけることは不可能だと確信しているが。

「そうか」
「で、あんたらは?」
「……魔導が使えない原因調査」
「二人でか?」
「いいや、先行隊だ」
「早く原因突き止めてくれよ」
「了解です」

 アークは嘘を並べて――といっても半分は真実だが、その場を後にした。正直に理由を告げても構わないが、それはしなかった。
 始末屋レインドフは、この街の魔石売買を代々やっている貴族が、魔導を使えない原因を作りだした元凶を発見始末して欲しいとの依頼を受けたのだ。だからこそ、原因を突き止めること自体に嘘はない。最も後から人が来ることはないのだが。

「街全体がピリピリしていますね」
「そうだな」

 街自体は魔石によって潤っていて、市民の生活も他の街と比べると豊かな方であろう。

「しかし、魔族が一歩でも脚を踏み入れれば、袋叩きにあいますね」
「だろうな。最も外から魔族がやってくるとしたら、魔法が使えなくても戦える連中だろうけれど」
「ま、それには同意して差し上げましょう。それにしても……魔族が原因ではないでしょうに、同情する価値もない馬鹿な奴らです」

 街の人族は魔族が原因だと一方的に思いこんでいるが、アークとヒースリアはそうではないと推測していた。
 魔石とは、魔族の血によって作られる。故に、魔石が使えなければ魔法も使えないはずだと。そしてその推測はこの街の一部の人族であれば容易にできるはずなのに、誰もそうしようとしていないのは、魔族を自分たちの生活を潤してくれるただの道具だと思っている証拠に他ならない。
 都合が悪くなったら殺して、その原因ではなかったらまた別の魔族を殺して――原因が解明されたらまたどこかから魔族を捕まえてくるのだ。

「魔族が各地を襲撃している中、この場所にはまだ襲撃をしていない所が聊か不思議ですが」
「確か、この街は一度魔族の襲撃にあっているはずだぞ」
「そうなのですか? それにしては被害があったとは思えないのですが……」
「確か、ある方法で撤退させたらしい。その後、魔族はこの街を襲っていない。魔族としては手をこまねいているんだろうな」
「ある方法ですか、一体どんな残酷な方法を使ったのでしょうね」

 クスリ、とヒースリアは笑った。どんな方法を使ったのか、それは不明だが、何か非道な手段を――魔族が退かなければならなくなるほど――使ったに違いないとヒースリアとアークは推測していた。


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