零の旋律 | ナノ

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 パーティ会場でアークは一通り挨拶を澄ませながら、並んでいる料理の数々をオールィクと同じのを手に取り、そして先に口に運ぶ。他の者が勘付かないように警戒しながら。
 毒見も兼ねていた。オールィクを何者が暗殺しようとしているのか、アークは知らないし、興味もない。だが、料理に毒が仕込まれている可能性は無きにしも非ず。逆にその可能性が高いといっても妥当だ。
 だからこそ、大抵の毒は効かないアークが毒見をする。

「――(あぁ、成程)」

 アークは誰にも気がつかれないように視線を鋭くし、周囲への警戒度を上げた。
 アークは理解した。何故レインドフ家当主である自分が護衛に選ばれたのか。大金と危険を冒してまでレインドフ家に依頼したその訳を。


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 苛立たしげにパーティ会場から離れた部屋で様子を伺う人影が一人。
 白いフリルが余すところなく施されているワイシャツは段が入っておりスカート状の形をし、下にいくほど長い作りになっている。それとは対照的な丈が短いベージュのコート。コサージュをあしらえている。
 オレンジ色の髪にシルバーの髪飾り。十代中ごろの容貌を持つ少年――カサネ・アザレア。
 その視線の先はパーティ会場の中の何処かにいるアークへ向けられていた。
 カサネ・アザレアはオールィク家当主が、自分が仕える唯一無二の存在エレテリカに危険を及ぼす可能性が高い発言と行動を起こそうとしている。それが実行される前に始末しようと考えていた。

 しかし、オールィクはカサネの狂気性を理解していた。
 自分の発言によって自分が消される可能性を否定しなかった。パーティは発言をする前から開催が決まっているため、今さら中止にするわけにはいかなかった。貴族としてのメンツかプライドか、はたまた両方か。しかし普段以上に警備に隙が出来るであろうパーティは絶好の暗殺機会。

 オールィクは思案した結果、レインドフ家当主を護衛として雇う事を決めた。
 異様な依頼達成率を誇るレインドフ家当主であれば、仮にカサネが直接命を狙いに来たとしても撃退出来ると。何より粗暴な護衛人を雇うわけにはいかない。その点レインドフ家は始末屋でありながら、貴族としての地位も得ている異様な存在。貴族であれば嗜みや礼儀作法も問題ないだろうとオールィクは判断した。その対策は功を奏した。アーク・レインドフはパーティで問題ない振舞いをしながら護衛をしている。そしてカサネ・アザレアは不用意に手出しが出来なくなっていた。
 オールィクの読み通りカサネはパーティ内で殺害する予定だった。しかしアーク・レインドフを雇った情報を仕入れた時、カサネの予定は変更せざるをえなくなった。順調だったはずの作戦はアークの存在によって乱された。

「全く持って苛立たしい」

 そして、自分がアークの存在に気がついているのと同時に、アークが自分の存在に気がついていることを確信していた。パーティ内でアークのことを見つけたその瞬間に。
 自分が判断出来たのなら、レインドフ家当主が認識出来ないはずがないと、まして初対面ではない。数度顔を合わせた相手だ。


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