零の旋律 | ナノ

魔術師実験


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 異変を最初に感知したのは、貴族の屋敷で捕らわれていた魔族の少年だった。
 少年は異変の原因を突き止めようとしようとも、“それ”が使えなければ原因などわかるはずもなく――次第に少年に訪れるは恐怖。
 何が起きているのか、わからない。けれど、その問題は主が来るまでに解決できなければ、血の数が増える。それだけは確かだった。瞳を赤くしながら、必死に“それ”を行使しようとするが、何の反応もない。眩きもない。
 それは――ただの血であり、ただの石ころになってしまった。

 交易が盛んで魔石の取扱も王都リヴェルアに次いで二番目という都市“クセルシア”の入り口にアークとヒースリアはいた。
 魔石の取扱で街は潤っているため、普段は活気にあふれ観光客も多いクセルシアだが、今、その街に活気はなかった。アークは街に足を踏み入れて怱々足を止める。
 原因不明の出来事のせいで、混乱しているのだ。怒声が響いたり、鳴き声が聞こえたり、問題が多発している。“それ”が使えなくなるだけで、こうも人族は混乱し、戸惑い生活がガラリと変ってしまう。それだけで、普段どれだけ“それ”に依存しているかがわかる。

「ヒース」
「何です?」

 アークの視線は人々には向いていない。何処か明後日の方向を眺めるようだった。

「魔導使えるか、試してみてくれないか」
「他力本願なんて御免です」
「ちっ」

 舌打ちをしてから、アークは渋々ヒースのブローチのように加工されていない魔石を取り出して、魔導を使おうと試みる。だが、魔導が発動することもなかったし、魔石が輝くこともなかった。

「主、ついに貴方は魔導まで使えなくなってしまったとは哀れです」
「違うだろ! つーか、ヒース」
「仕方ありませんね」

 ヒースはやれやれと肩を竦めてからアーク同様魔導を使おうとするが、此方もやはり魔導が発動することはなかった。

「……到着するまでは半信半疑でしたが、本当に魔導が使えなくなっているのですね」

 “クセルシア“では一昨日から一切の魔導が使えなくなっていた。原因は不明だ。街からしばらく離れれば魔導使える。実際アークはそれを渋々ながら試した。
 しかし街へ足を踏み入れると、途端に魔導が扱えなくなる。単に仕様者が魔導を扱えないわけではない、街の外へ出れば魔導を再び使用出来るのだから。
 だからこそ、クセルシアは混乱していた。昨日までは使えていたのに何故、突然今日になって、出来なくなる。魔族が何か仕出かしたのではないか、そうに違いない――そんなふうに話は発展していく。時々帝国の陰謀を耳にすることもあった。兎に角噂でしかなく、それらに信憑性も確実性もない。


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