零の旋律 | ナノ

執事手入


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 仕事中毒のアークがレインドフ家を飛び出して三日後、倒れていたアークを回収し終えたヒースリアは自室で銃の手入れをしていた。そこへ、扉が聊か乱暴に開けられる。アークは熟睡中だし、乱暴な開け方はしない。カトレアも当然しないとなると可能性は一人しかいなかった。

「リアトリス、もう少し丁寧に扉を開けることはできないのですか?」
「わかりましたですよー。では次は扉が開いたことをヒースが気がつかないほどに丁寧に開けますです」
「出来るのですか?」
「修行してきますです―って、何ですか、ヒースは銃の点検ですかー真面目ですねぇ」
「ちゃんと手入れしないといざという時困りますしね」
「それにしても本当ヒースの部屋って銃屋敷って程銃が山盛りですよねー」

 そういってリアトリスは部屋を見渡す。普段は収納されている銃がずらり一面に並んでいた。ヒースリアが愛用しているマスケットの形状をした銃は特に数が多い。ヒースリアの好みに合わせてか、銃の殆どが白銀か白の色をしている。

「狙撃に関しては主を上回りますですしねー」
「関してはって何だよ」

 思わず素の口調でリアトリスに話しかける。

「事実ですし」
「それ以外にも劣っているつもりはない」
「まぁ確かに他にヒースがアークより優れている場所を上げるとしたら、素早さとかも勝っていますねー」

 口調は普段の口調でありながら、ヒースの素の口調に合わせてか、アークのことを主ではなくアークとリアトリスは呼び捨てにした。

「全く持ってヒースは好戦的ですねぇ」
「アークの戦闘狂には足元にも及ばないけどな」
「でもアークに対しての殺意は人一倍高いじゃないですかー。無理矢理屈服されたのが屈辱ですか?」
「当たり前だ! しかもその言い方だと俺が万全の時に負けたようにしか聞こえないぞ!」
「事実を捻じ曲げて伝えるのもまたヒースを怒らすために効率的な手法なのです。最もこの場合は捻じ曲げていませんから、相手に誤解を与えるように説明するのはヒースに屈辱をあたえるのに最適な方法ですと言い換えるべきですね!」

 笑いながら後ろに手を組んで、ヒースの部屋を興味深く眺めて行く。普段銃の手入れをしている最中に入ることは滅多にないからだ。

「お前なっ!」

 ヒースリアは顔を引きつらせながら手入れが終わったばかりの拳銃をリアトリスに向けるが、ややあって下ろした。

「酷いですね―無抵抗の人を撃ち殺そうとするなんて根性ねじ曲がっています」

 堪忍袋の緒が切れそうだったがヒースリアは辛うじて耐える。

「まぁそれもヒースの愛すべき特徴ですけれども」
「お前なぁ……!」

 ヒースリアは別に温厚ではない。むしろ気は短い方だ、我慢も限界に近付いていたが――しかし、ヒースリアとリアトリスの仲はいい――はずだ。


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