零の旋律 | ナノ

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「あぁ。レスの能力に関しては俺より遥かにシャーロアの方が才能あるからな。俺が十秒かかって読みとれる情報なら、シャーロアは一秒と必要しない。それくらい才能の差はある。だからこそシャーロアは記憶の選別が出来る。最も、俺は人族なんてどうなっても構わないって思っているから、仮に記憶の選別が出来たとしてもそれをするつもりはない」

 断言。それは確固たる恨みがヴィオラには存在しているからだ。だからこそ、人族に情けをかける必要性は見当たらなかった。人族が滅ぼうがそれは別に構わない。それがヴィオラの心情だ。

「アンタはそれをどう思う?」
「別になんと……あーいや、依頼人の情報を盗み見られたら困るな」

 そのひと言が引き金となる。ヴィオラは気がついたらアークに殴りかかっていた。だが、アークはそれを安々と交わしてしまった。

「依頼人の情報が漏えいすることが困るのか!? 最初に思ったのは別に何ともないと言おうとして、それでも違ったと思ったら、それは自分自身の過去じゃなくて、依頼人のことを思うのか!? なんでアンタはそういったことを知られて、それでいて平然としていられる!」

 記憶を相手に読まれるとわかっていて、何故今までと同じ態度を貫ける。
 ――理解が出来ない、理解なんてしたくない。

「アンタの記憶だって、想い出だって俺たちレスは全て盗み見ることが出来るんだぞ!」
「別に、みられたってそれは過去って話だろう?」
「っ……! アンタは、アンタは……他人に左右されることがないんだな」

 言葉が詰まる。意思が強固というレベルを既に超越している。何者にも左右されることのない感情。
 重心の軸が固定されすぎて、誰にも動かすことが出来ない、それはアーク本人にすらも不可能にしているとヴィオラには思えた。一体何がアーク・レインドフを構成しているのか皆目見当もつかない。アークに対する畏怖と恐怖と怒りと途方もない異質感を肌で、心でヴィオラは体感してしまった。

「ははっ」

 乾いた笑いが漏れる。

「それはアンタが裏社会の人間だから、とかじゃねぇ。第一レインドフは裏とも表ともいえない中途半端な存在だしな。裏社会に関与しながらも、貴族として表社会にも関与する存在。そんな中でアンタは恐ろしい程ぶれない。ぶれなさすぎる」
「それが、俺だろ?」
「あぁ、そうだな、それがアンタだ。例えどんな真実が目の前に待ち受けていようと、それを全て受け入れられてしまう。事実として肯定してしまう、もはや人でもないよ、アンタは」

 その言葉には同じ人だと思いたくはないという意味も含まれていた。

「ついでに教えておいてやる。『魔術師』とは『魔石』を扱わずして『魔法』が扱える『人族』を示すんだよ」

 人族は魔法を使えないもの、それが理。それを覆す存在が存在することは衝撃の事実である。アークは確かに驚いた表情をした、けれど“驚いた”それ以上の感情は抱いていないようにヴィオラの瞳には映った。

「それだけだ。……聞いていいか?」
「なんだ?」
「最初の質問に戻るが、何故ユーエリスとハイリだけは殺さなかった? やっぱり救いようのない幼馴染関係は、アンタにとっても大多数の人とは別なのか?」
「――偶には、多少の例外を作ってもいいんじゃねぇの」

 それがアーク・レインドフの返答、異質な中で、唯一感情らしい感情だとヴィオラには思えた。
 アークに敵対しながらも生かされたハイリとユーエリスの二人が今後どの道を選ぶのかヴィオラにはわからないし、アークにすらもわからないだろう。けれどヴィオラに理解出来ることが一つだけあった。
 アークは治癒術師が必要となった時、今回の出来ごとが最初から存在しなかったようにハイリを呼ぶと。
 それだけは確信出来た。それがアークの強さであり異質であり異常であり――ヴィオラを恐怖させた感情。


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