零の旋律 | ナノ

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「救いようがねぇ、ドロドロだな」

 ヴィオラはアークとハイリの関係を聞いて、言葉が口をついて出てきた。
 アークの両親がハイリの父親を殺し、ハイリの母親がアークの両親を殺した。そんな事実があった上で今の関係を築いていられるのは異常であり、すでに壊れていて救いようがない、それでいてドロドロしていると。アークは否定も肯定もしなかった。

「特にアンタはもう終わっているだろ」
「……そうか?」
「あぁ。ホクシアから、アンタは異常だって聞いていたし俺も同意していた。けど――その同意した段階で予想していたことを遥かに上回っているんだ。別に俺だって他の人からみりゃ、普通じゃないかもしれないけど、それでもアンタの足元にも及ばねぇよ」

 ヴィオラの心からの畏怖。

「ハイリとの関係もそうだけど、おかしいんだよアンタ。俺が依頼をした時、アンタは『魔術師』の単語を耳にした。けれど『魔術師』を知っているはずの俺に対して何も言ってこない、それだけでおかしい。普通は問い詰めるもんだ」
「聞いたら答えたのか?」
「例え、答えなかったとしても、聞くのが人の性ってものじゃねぇのか」
「確かに俺は『魔術師』も『レス』も知らないけれど、だからと言って知ろうとも思わなかっただけだ」
「……アンタは完結してしまっているんだな、アンタの矮小な世界の中で」
「誰だってそうだろう?」
「かもしれないな」

 ヴィオラは窓枠から降りてアークの前に白い手袋を外した手を突き出す。後数センチヴィオラが身体を前に出せばアークの身体に触れる。

「何だ?」
「俺やシャーロアが何故情報屋として情報収集能力に長けているのか教えてやる」
「……?」
「俺やシャーロアの名字は『レス』だ。レスってのはな、相手の記憶を読み取ることが出来るんだよ」

 人族には誰ひとりとして語ったことのない力。語ってはいけない力。人々は己の持っていない力を欲するのであれば、狙われるのは一目瞭然。異質な存在として社会から抹殺されようとするのも必然。だからこそ、ヴィオラたちレス一族は人の歴史に関与すること止めた。そうして人々の歴史から姿を消し、魔族とだけ交流を持ち続けた。

「条件は対象に直接触れること。最も、相手が直接触れた“物”に触れても鮮度は落ちるし読みとれる情報量にも限りはあるが、記憶を読みとれることが出来る。最も効率がいいのは直接肌に触れることだ。そして読みとる場合此方も直接触れなければいけない。だから手袋などが間に存在している場合、記憶は読みとることが出来ない」
「成程、それでヴィオラは常々手袋を外していたんだな」

 ヴィオラは何かがあると手袋をしていても外す動作をすることが多かった。それは意味のない行為ではなく、相手の記憶を読みとるために必要なことであった。相手の記憶を知ればアドバンテージを保つことも用意だ。

「そういうことだ。シャーロアは必要以上に相手の記憶に触れるべきではないと思っているから常に手袋をしている」
「確かにシャーロアはそういうのは好まなさそうだな」
「何より、シャーロアは相手の記憶を選別出来て、読みたい記憶を知っていればそれだけを読むことが出来る」

 だからこそ、シャーロアは余計な情報は読みとらず、必要な情報だけを探り当てることが出来る。

「シャーロアはってことは、ヴィオラは出来ないのか?」

 ヴィオラは首を縦に振る。シャーロアは記憶を選別できるが、ヴィオラにはそれが出来ない。選別されることのない膨大な記憶をヴィオラは読みとる。


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