零の旋律 | ナノ

[


「それにしても、流石強いな」
「……私のこと、知っているの?」
「さぁな」
「そう、どっちでも――いいけど」

 ユーエリスは左右から投擲する、計六本だ。アークはそれを悉くはじくだけではなく、角度を変えてユーエリスへの攻撃手段とした。
 ユーエリスはしゃがんでナイフをやり過ごす。その身体の動きより遅れた髪が一房切られ短くなる。
 アークは一目散にかけユーエリスの前に現れる。ナイフを投げようとして流れる動作で起き上がったユーエリスの腹部をアークは力の限り蹴る。容赦も情けもない威力に、痛みでバランスを崩したユーエリスにアークは続けて攻撃を加える。
 ユーエリスは壁に激突して動かなくなったことを確認してからアークはレイピアの形状をした短剣を男に投げ、それは机に突き刺さる。

「な、何だと……」

 ユーエリスの実力に絶対的な自信を男は持っていた。今までのユーエリスの功績から判断したことだ、それに誤りがあったとは思いたくもない。男は驚愕しながらも、しかしこのまま無様に殺されるわけにはいかない。男は初めて椅子から起き上がり、机の下で密かに構えていた銃を発砲する。
 アーク・レインドフという的に続けざまに発砲したため、七発発砲したところで銃弾が尽きたが、魔石が付着していた銃は紫色に発行し、次から次へと弾丸を作り出し止むことのない銃撃を可能とする。
 弾丸は氷を纏い、着弾したところを凍らせたが、アークはその攻撃を一つも受けることがない。最小限の動きで銃弾を全て交わしているのだ、恐ろしい動きだとヴィオラは冷静に分析しながらも――やはり始末屋とは戦いたくないという思いを強くする。
 アークが近づいてくると同時に、これ以上銃での攻撃は無駄だと悟り銃を投げ捨てる。ヴィオラに銃が当たりそうになったがそれをヴィオラは右手で受け止め、そしてさりげなく懐の中へと仕舞った。
 男は銃の他にも机の下に隠してあった斧を取り出し思いっきり振る。その机が粉々に砕け散った。木片が舞う中、アークは視界が邪魔されることなく、相手の斧を掴み――男を吹き飛ばす勢いで遠心力をかけると男はバランスを崩し、命綱を手放してしまった。そのまま斧が身体を貫く。真っ赤な血は、赤い絨毯に吸い込まれる。

「……どういうことだ、アーク」

 全てが終わった後、ヴィオラはアークに詰め寄る。

「どういうことだとは、何がだ?」
「いや、誰を殺そうが誰を殺さまいが俺には関係ないことだがけど依頼は完璧にこなすアーク・レインドフが何故、そこの少女は生かす?」

 ヴィオラの視線は地面に倒れているユーエリスに向く。そうユーエリスは気絶しているだけで生きていた。アークはユーエリスをわざと生かしたのだ、それに納得がいかなかった。

「別に、ただの気まぐれさ」
「ハイリ・ユートの知り合いだからか!?」
「俺は、ユトハイアの壊滅を依頼されただけだ。だからユトハイアという存在が存在しなくなれば別にユーエリスを殺す必要はない」

 それは、ヴィオラが初めて聞いた仕事中毒であるアークの返答。
 意外と同時にヴィオラは何処か違和感を覚えた。そしてすぐに違和感の正体に気がつく。

「……お前さ、ハイリとはどういった関係なんだ? ただの昔馴染みか?」

 昔馴染み、それだけでアークが依頼に手を加えるとは思えなかった。それ以外の何かがあると確信出来た。

「ただの昔馴染みだよ、幼馴染というな」

 幼馴染――しかしそれだけだろうかと疑惑の眼差しをヴィオラが送ると、アークは軽く肩を竦めてから続けた。

「ただの幼馴染だよ――俺の両親がリィハの父親を殺し、リィハの母親が俺の両親を殺し、そしてリィハの母親が自ら命を絶ったそれだけだ」
「待て! それだけだって、その内容自体が衝撃的過ぎるわ」

 ――それで、どうして付き合いがある
 ――それで、どうして何もなかったように振舞える。
 ――それで、どうして二人とも生きている
 ヴィオラの表情にアークは理解できないといった面持ちで苦笑した。それがヴィオラには余計に理解出来ず悪寒が走る。


- 201 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -