始末屋妨害 +++ 王都リヴェルア――貴族オールィク家にアーク・レインドフはいた。肩までつく髪の毛は後ろで一つに纏められ、赤い髪留めで留めている。宝石のルビーが使用され、髪飾りだけでかなりの金額になることだろう。高級品だと一目でわかる礼服を身に纏っている。貴族オールィク家では現在パーティが開催されていた。主催者はオールィク家当主ネーリオ・オールィクだ。アークは四十代中ごろのネーリオ・オールィクの傍に付き添うように立っている。 「おお、アルゼルニ卿よくいらっしゃって下さいましたな」 「オールィク殿のパーティとあらば予定を全てキャンセルしてでも参りますよ」 「有難いお言葉です」 「そちらの青年は?」 「此方は私の遠い親戚で、ヒースリアです」 「そうか、宜しく」 「宜しくお願いします」 ヒースリア、それは現在アークが名乗っている偽名だ。 アークは秘密裏にオールィク家に雇われていた。依頼内容は自分の命を狙っている輩から自分の命を守って欲しいというもの。提示した依頼額をきっちり払った為、アークは依頼を受け付けたが心の中では疑問を覚えていた。 始末屋レインドフと関わったと知れれば、オールィク家の評判に関わるだろうに、普通の護衛者を雇う事はせず、何故レインドフ家を雇ったのだろうかと。 しかも始末を専門としているのに護衛。当主を守れという依頼内容もアークには不可解だった。 しかし、依頼を受ければそれもまた別。仕事に集中するのみ。 アーク・レインドフの名前は広く広まっている。その為アークは、自分の身元が割れないようにヒースリアという偽名を予め用意していた。 名前を偽名として勝手に使われているヒースリア本人は屋敷にいる。 最もヒースリア・ルミナス自体偽名である。アークがヒースリアを雇う際につけた名前。本名をアークは知っているが、それが“本名”なのかは知らない。 +++ アークがパーティに出席している時、レインドフ家は三人で晩餐を囲んでいた。 「ヒースは主についていかないのですかー?」 毎回ではないが、ヒースリアはアークの仕事に同行することが間々ある。 「王都リヴェルアですし……まぁ今日で仕事は終わるようなので、三日は過ぎないでしょうから問題ないですよ」 「成程―。王都ですかー」 「えぇ、何でもパーティ会場に行くそうで」 「あぁ、成程」 ポンと手を打ってリアトリスは納得する。今回アークが、ヒースリアに限らず誰も連れて行かなかった“理由”を理解したからだ。 「パーティの類でしたら、私たち行けませんもんねー。行きたくもありませんが」 「ですねぇ」 「何せ礼儀作法系ちんぷんかんぷんですから」 「全くです。あんな面倒そうなの、よく主は覚えていますよね」 「同感―。そんなん覚えて何が楽しいのですかねぇ、必要最低限あればそれでいいと思うのですよ」 「上流階級の嗜みは理解出来ません」 「私もですー」 カトレアは一人黙々と夕食を口に運ぶ。今晩はビーフカレーだ。料理したのはリアトリス。 彼らが屋敷に残っている理由は明白で、アーク以外は貴族のパーティで必要とされるだろう、知識がなかった。 口調こそ礼儀正しく見せているヒースリアも同様だ。だからこそ自ら率先して同行したいとは思わないし、アークも誰かを同行させようとは考えていない。 最もヒースリアも最低限以外はアークに同行したいとは露ほども思っていない為、丁度いいといえば丁度いいのかもしれない。 [*前] | [次#] TOP |