零の旋律 | ナノ

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 アークは組織の首領がいる部屋の扉を開ける。何処にいるかわかっていたわけではない、アークが扉を片っ端から開けていき残った最後の扉だったからだ。案の定、そこには他の部屋にあったものよりも幾分も高価な品々で部屋は飾られていた。部屋の中央では、光沢ある机に両肘をついて座る中年男性と、その隣に護衛のように並ぶのは黒髪の少女だった。少女の髪の毛は長さが疎らで一番長いのは太股まであるが、短いと肩くらいまでしかないのもある。

「私の部下を悉く倒されてしまうとは、しかも無傷とは一体どれほどの実力なのだお前は」

 男に焦りは見えない。切り札でも隠し持っているのかとヴィオラの視線は鋭くなる。勝手に同伴した以上、何かあってもアークは自分を助けはしない。自分の身を守るのは自分だけだ。何より、万が一にもアークがピンチになったとして、ヴィオラも助けない。

「周りの奴らが弱いだけだろ」

 アークは簡単に答える。本人たちが聞けば激怒しそうなものだ。彼らは決して弱くない。ただ相手が悪かっただけだ。

「依頼主は誰だ?」
「答えるとでも思っているのか? 聞きたければ無理矢理聞きだしてみろ」

 大胆不敵、自身満々、魔王が目の前に現れても笑みしか浮かべないような態度でアークは泰然自若の態度を貫く。いや――とヴィオラは思う。実際にお伽話のような魔王が実際に存在したら、アークは同様の笑みを浮かべ、そして戦闘狂であるがゆえに魔王に挑むと。

「……それもそうか、殺れ」

 男の合図に、頷きながら黒髪の少女が動いた。ヴィオラは今回傍観者を貫くつもりだ、邪魔にならないように壁伝いに進み、そして窓枠に座る。位置的には男の後側だが、ヴィオラは全く気にしない。男もヴィオラに敵意がないことを感じ取ったのか優先順位の問題か、ヴィオラを視界に入れることもしなかった。
 アークは花瓶を手に取り、遠心力をつけてブーメランのように投げる。黒髪の少女――ユーエリスは屈んで花瓶を交わす。花瓶は壁に当たり砕け散った。破片に当たらないためにユーエリスはその場を移動する。
 ユーエリスはアークの前まで走りだし、身体をしならせて足技を繰り出す。アークはそれを右腕で受け止める。
 ユーエリスは長い袖から短剣を取り出し投擲すると、アークはユーエリスの足を離して後方へ下がる。ナイフは規則的な音を立ててそれぞれ壁に突き刺さった。
 ユーエリスは後方に飛び、壁を足踏み台にして勢いをつけ、かかと落としをする。アークはそれをかいくぐる。ユーエリスの足は対象を逃し、地面に激突する。ユーエリスは両手を地面につけ倒立した体制のまま、足を広げ、手を使って回転する。
 アークは距離内に入らないように後方に下がる。ユーエリスは片手で自身の身体を支え、もう片方の手でナイフを投擲する。アークは壁に飾ってある高価な絵画を右手に持ち、盾代わりにしてナイフを弾く。さらに絵画をユーエリスに向かって乱暴に投げつけた。ユーエリスは柔らかい身体であの体制のままブリッチをして絵画を交わす。絵画はヴィオラの横を通って窓ガラスを割り、地面に落下した。

「あの絵画いくらしたんだろ……」

 ヴィオラは視線を無残にも粉々にされた絵画に向けるが、すぐにアークとユーエリスの戦いへ視線を戻す。戦いを見ていたいからではない。見ていないといつこっちに被害が及ぶかわからないからだ。


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