零の旋律 | ナノ

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「そう何度もレインドフに依頼するかよ。一体どれだけ詐欺しなきゃいけなくなるんだよ。前に立て替えてもらった代金を返しに来たんだよ」
「詐欺で稼いだか?」
「……わかっていることをわざわざ問うな」

 そういってヴィオラは鞄ごとアークへ渡す。

「中身確認しないのか?」
「別に構わないさ」
「詐欺師を信頼しない方がいいと思うけどな」

 ヴィオラは苦笑する。アークは鞄を受け取ってすぐにベッドの上に置いたのだ。

「騙されたら騙された、それだけだろう」
「寛大なのかそうじゃないのか判断がつけにくい」
「寛大ではないだろ」
「全く。それじゃあ用事は終わったし、俺は失礼するわ」
「じゃーな」

 ヴィオラは背を向けて軽く手を振り、その場を後にし、ある目的地に向かって歩き出す。木々の間を抜けていく。太陽の光は徐々に沈み夕方に刻一刻と近づいていく。

 組織『ユトハイア』それは裏社会では有名な組織であり、その実力とともに様々な仕事を節操無く引き受けることでも有名であった。依頼さえあれば、殺害、誘拐、強奪、何だってする組織である。
 アーク・レインドフにそんな組織を壊滅して欲しいと依頼してきた人物が一体何者だったのか――敵対する組織か、ユトハイアに恨みある人物かは知らないし興味もない。
 依頼人の秘密は厳守であり、依頼主に詮索することもない、ただアークは依頼を精力的にこなすだけ。それが仕事中毒であるアークのやり方。
 ユトハイアの本拠地がある郊外へたどり着く。一見すると貴族が住んでいるのではないかと紛うだけの大きい屋敷だった。全貌を把握した所で――最初は場所確認だけだったため、全貌を確認するほど近づいてはいなかった――アークはユトハイアの前で足を止める。止めざるを得なかった。

「……」

 何故ならば前方に、立ちすくんでいる人物が、アークにとって馴染みある人物だったからだ。彼が何故、この場にいるのかアークには検討もつかなかった。彼が、ユトハイアと関わり合いがあるとは到底思えない。
「リィハ、何故そこにいる?」
「……アーク。お前が手を引かないとわかっているし、仕事の失敗をしないとも知っている。嫌というほどな、けれど――それを承知したうえで手を引いてくれないか?」

 アークにとって馴染みある人物であり、番人のように立っていたのは、身の丈ほどある杖を片手に持ち、黒の帽子を深く被り、銀色の髪は肩より少し短いくらいで真っ直ぐに切り揃えられている、紫色の瞳はアークを真摯に見つめていた、アーク・レインドフの昔馴染みであり治癒術師であるハイリ・ユートだ。

「俺が手を引かないと知っているだろう、どういうことだ?」

 ユトハイアの組織とハイリは関係ないはずなのに、何故そこにハイリがユトハイアを守るために立っているのか理解できなかったが――そこで一つの可能性が浮かんできた。脳裏に浮かぶのはハイリが会話に度々その名前を呼びながら戦闘狂であるアークに誰が会わせるかと、アークと合わせることを拒否し続けてきたハイリの――彼女。


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