零の旋律 | ナノ

治癒術師選択


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「初めまして、近くに引っ越してきましたアゼリカ・ユートと言います、こっちは息子のハイリ。宜しくお願いします」

 ハイリ・ユートとの出会いを今でもアークは鮮明に覚えている。

「大きいお屋敷ですね、貴族の方ですか?」

 始末屋と両親は答えなかった。

『あははははは、私は私は目的を達成できたのよ……!』

 大粒の涙を流しながら叫んだ人の顔も鮮明に記憶として残っている。
 全ては――異常で狂っていた、狂っていたのはアークであり彼女であり、全員だったことを今ならわかる。


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 アーク・レインドフは組織『ユトハイア』の壊滅を依頼された。ユトハイアの本拠地がある街キセトニスのホテルにアークは宿泊していた。本拠地はキセトニス郊外の建物にある。場所を確認したあと、日が沈む頃合いを見計らってから壊滅に向かおうと判断し、一旦宿に引き返したのだ。ユトハイア、何処かで以前聞いた名前だなとアークは思い、ある可能性を考えていた。可能性を危惧する前に、アークはベッドで横になっていた身体を起こす時、扉が開く。扉へ視線を移す時、前だけが長い黒髪の青年がいた。白いロングコートを羽織り右手にはトランプのジョーカーを一枚だけ握っている。ヴィオラだ。

「ヴィオラ? どうして此処が?」
「ユトハイアを壊滅しにいっているってリアトリスが言っていたからな」
「あいつには守秘義務ってものがないのか?」
「あるのか?」
「……あってほしい」

 ヴィオラはアークに用があった。それ故にレインドフ邸を訪れたが、アークはいなかった。ヒースリアよりリアトリスの方がまだ話しやすいと判断したヴィオラは、リアトリスにアークが何処へ行ったか尋ねると、ユトハイアという組織を壊滅して欲しいと依頼されたから飛び出て行ったと言われたのだ。

「ユトハイアって何処にあるのか知っていたのか?」
「いいや、調べた」
「調べたって……」

 アークが依頼を受けたのは朝で、キセトニスに来たのは昼過ぎだ。リアトリスから情報を受け取ってこの場に到着するまでの時間に殆ど無駄がない。その間にどうやって自分がいる現在地を含めて調べ上げたのか疑問だった。

「ん? あぁ、だって俺は元々情報屋やっていたし」
「え? そうなの」
「あぁ、情報屋やっているのも飽きたから止めたんだけどな」
「……シャーロアといいお前といい変な色兄妹は情報収集力に長けすぎだろ」
「俺よりシャーロアの方が優秀だけどな」
「そうなのか?」
「あぁ、そうだ」

 何せ、シャーロアは欲しい情報だけを覗くことが出来るからな、とヴィオラは心中で呟く。

「まぁだからといってユトハイアを調べ上げるくらいは造作もない。裏社会ではそこそこに有名な組織だろ」
「まぁな、でヴィオラ何用? 何か依頼か? 依頼なら仕事が終わってから引き受けるが」


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