零の旋律 | ナノ

始末屋見合


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 始末屋アーク・レインドフは現在港町シデアルのとある場所でお見合いをしていた。何時までもお見合い
 写真を眺めていてもいい人物は見つからないと思っていた時、アークとお見合いをしたいと申し出があり、その相手と会ってみることにしたのだ。テーブルには料理のフルコースが並んでいて、向かい合わせに座っている。

「それででしてね」

 かれこれ会話は一時間ほど続いている。相手はアークに興味心身な素振りを見せるが、その実興味があるのはレインドフ家の財産だなと冷静にアークは観察していた。
 アークの中ですでにこの女性と結婚をする選択肢はなくなっている。後はどうやって話を断るか、それをお見合い開始から五十分ほど考えていた。

「何故、私とお見合いしてみたいと思ったのですか?」

 財産目当てだとわかりきっていながら、何と答えるのかが気になりアークは単刀直入に聞いてみた。

「アークさんの人柄に惚れたからですわ、この方ならわたくしを幸せにしてくれるって直感しましたの」

 思わずアークは笑い出しそうになった。この場にヒースリアやリアトリスがいたら大爆笑して転げまわっているだろう。自他共に認める所の戦闘狂であり、仕事中毒の――後半はともかく、その人柄に惚れるという嘘は流石に笑えてならなかった。それに後半の仕事中毒も真っ当な仕事なら可能性が高くとも、アークの仕事は始末屋であり、依頼があれば誰でも始末するのが仕事だ――時折変な依頼も混じるが、それは置いておいて。それを何処からどう見ても一般人である女性――しかも名家の女性に耐性があるはずもない。知らないとはいえ、そんな嘘を堂々といわれると逆にレインドフの本性を見せたくもなる。

「そうですか」
「えぇ、そうです。写真をみた瞬間から」

 写真だけで性格がわかるのはせいぜいあの策士様くらいなものだろうとアークは内心笑いをこらえるのに必死だった。それだけで、お見合いをしたのは間違いじゃなかったと思えてくる。

「有難うございます。では、私はこれで失礼しますね」

 愛想笑いをしてアークは話の途中だというのに切り上げて席を立つ。

「え、どういうことですの!?」

 いい雰囲気で進んでいると思った女性は突然のことで慌てる。

「私は、本心では金銭が目当てなのに見え透いた嘘をつく人と結婚するつもりはないってことですよ」
「嘘ではないですよ! ほ、本心から」

 動揺しているのは一目でわかる。アークはせめて動揺くらい隠せよと思いながら続けた。

「レインドフ家について何もしらないお嬢さんが、俺にかかわるだけ死ぬだけだぞ」
「えーそれはどういう意味で……っ――!?」

 女性の顔が一瞬にして強張る。何かが自分の頬のすぐを通り抜けて壁に突き刺さった音がする。恐る恐る後ろを振り返ると壁にはフォークが突き刺さっていた。テーブルに視線を移すと、アークの皿にあったはずのフォークが消えていた。今度こそ女性はアークを引き止めなかった。


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