零の旋律 | ナノ

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「エレテリカ様ってあんた王子じゃん。なんで魔族を助けた? 魔族を助けたっていいことなんて何一つないだろ」
「俺は君が悪い人に見えなかったからね。それに魔族だからって捕えるつもり、俺にはないし」
「……」
「迷惑だった? だったらごめんね」
「迷惑じゃないさ、助かった。じゃあな、エレテリカ――これ以上俺には関わるな」
「そうだ、是着て行くといいよ」

 そういってカサネに差し出したのはエレテリカが着ていた上着だった。

「売ってお金にしてもいいし、何にしても構わないからあげる」
「返さないぞ?」
「あげるんだから返さなくていいよ」
「……有難う」

 カサネは逃げるようにしてその場を後にした。
 初めてだった、他人から無償の優しさを貰うのは。しかも相手は自分とは縁のない世界で生きている王族の少年。恩返しがしたかった――それは所詮恩返しという言葉にすり替えただけで、実際はその少年の隣にいたかった。
 だから、カサネ・アザレアは魔族として生きる道を止めた。


「俺はそれから必死に勉強をして、それと並行して金の瞳を隠す方法を研究した。そうして魔力を封じることで瞳を黒くすることに成功した。エレテリカの隣にいるために、色々な手段を使って、俺は策士としてエレテリカの傍にいれた。出会った当初は周りを警戒していたエレテリカだったが、優しさは昔と何一つ変わってなんかいなかった。幸せな日々だったよ。俺はエレテリカに幸せになってほしい、それが俺の願いだ、だから俺のせいでエレテリカの幸せを壊すわけにはいかない」

 そうカサネは纏めた。

「さようならだ、シオル」
「……またな」

 さようならと言われたところで、さようならとは返さない。もう二度と会えないとは思わない。カサネとはまた会える、そう信じている。

「お別れじゃないぜ、カサネ。俺たちは共犯者だろ?」
「はははっ、そうだな。じゃあまた会おう」
「あぁ」

 カサネは窓を開ける。冷たい風は心まで寂しくしてしまいそうだ。カサネは魔法陣を展開し、その場を後にした。
 シェーリオルは何時までもその場で、カサネがいた後を眺めていたかったがそうはいかないと、外に出る。アークは腕を組み、壁を背もたれにして待っていた。

「あの策士様は?」
「……王宮から出て行った」
「そうか」

 アークは何も聞かない。それが今だけは有難かった。

「有難う」
「俺は俺の依頼をしただけだ」
「そうだな」

 シェーリオルはアークを王宮の外まで送ってからやることがあった。大切なこと、カサネから託されたことが残っている。それはエレテリカに真実を隠蔽したまま、真実を伝えること。カサネは自分が魔族であることを最期までエレテリカに伝えなかったのならば、伝える必要はない。
 カサネ・アザレアとはまた出会えるのだから――。


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