X 「確かに。リーシェ兄さんは猫っぽい」 エレテリカはシェーリオルの態度は確かに猫を想起させると同意する。 「ならエリー兄さんは何だよ」 「……そうだなぁ、狼?」 「あー確かに。白い狼って感じ」 「わかるわかる」 「エレは……なんだろリス?」 「リス!?」 「可愛くていいじゃん」 兄弟の会話を傍目にカサネはアーク・レインドフに近づく。その視線はエレテリカから見えない位置のせいか鋭い。 「アーク、何故貴方がこの場にいるのですか?」 「リーシェ王子の依頼だ」 「シオルめ余計なことを」 何故シェーリオルが始末屋アーク・レインドフに依頼したのか見当がついたのだろう、カサネの舌打ちがアークの耳には届いた。 「余計なことではないだろう、お前――殺されてもいいと?」 「……私には、どうでもいいことです」 カサネはそう断言した。カサネにとってカサネの生死はさしたる重要事項ではなかった。カサネの中での優先事項は常にエレテリカが占めている。普段であればまだしも、カサネにとってやるべきことがある今は自分のことに時間を割くのは勿体無かった。 「王子、それではまた私は仕事の方に戻りますね」 「あっ、待ってカサネ……」 「何ですか?」 「ううん、何でもない。必要になったら何時だって手を貸すから」 「有難うございます」 本当は仕事など全て放置して、このまま此処にいて欲しかった。けれどカサネを引き留めることなど出来ない、ならばせめて――笑顔を見せていよう。 カサネ・アザレアがこの場を後にしてからエレテリカは“あること”の真意をシェーリオルなら知っているのではないかと思って口を開く。 「ねぇリーシェ兄さん。不穏な噂を耳にしたんだけど、カサネが命を狙われているって本当?」 真剣な眼差し、カサネにとってその事実を知られることは何より不都合だろうが、シェーリオルは隠さなかった。 「あぁ、本当だ。だからアークをこの城に招いたんだ。安心しろ、カサネが殺されることはない。そんなことはさせない」 それはカサネと共犯関係を結んだシェーリオルの確固たる信念。 「だが、エレもカサネの動向には出来るだけ気をつけろよ」 「うん、わかっているよ。アークさん、カサネを守ってください」 「それが依頼だからな」 始末屋と伝えなくとも、エレテリカはアークの強さを肌で感じ取っていた。強さを理解した。 だからこそ、安心だと思えた、何よりカサネ自身弱くない。幾度となくエレテリカを殺そうと狙ってきた凶手を抹殺している事実をエレテリカは知っている。 [*前] | [次#] TOP |