零の旋律 | ナノ

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 アークはそれから暫くエレテリカの部屋でシェーリオル、エレテリカと会話をしていた。会話内容は他愛ない日常的なものだったが、アークは勿論始末屋稼業をやっていることは隠している、隠していても会話内容には困らないほど日常的な出来事は豊富だった――主にリアトリスとヒースリアのせいで。
 カサネの身の安全を案じているシェーリオルがこの場で会話しているのには勿論訳があった。それはシェーリオルには予感があった――そろそろカサネがエレテリカの元を訪れると。
 そしてその予感は見事的中する。エレテリカの部屋に心身ともに疲れているはずなのに、その姿を一切見せない笑みでカサネがやってきた。最も、笑顔のままではあるがアークが視界に入った瞬間、眉がぴくりとだけ動いた。その程度の反応しかしなかったのは流石策士というところか。

「王子、最近忙しくて中々顔を見せられなくてすみません」

 エレテリカにだけ向ける笑顔で頭を垂れる。何日も寝ていないだろうに、それすら一片も見せないカサネにシェーリオルの心境は複雑になる。エレテリカのためにカサネは自分自身のことを全く顧みないことを知っている、だからこそ何時かそれが原因で倒れてしまうのではないかと心配になる。

「気にしないでよ。それよりカサネ、仕事は大丈夫なの? 俺も手伝えることがあったら手伝うけど」
「大丈夫ですよ。王子に手間をかけるくらいなら猫の手を借りますから」

 カサネなら本当に猫を連れて来そうな台詞だった。

「それだと余計に仕事増えるでしょ」

 エレテリカは苦笑いをする。エレテリカの本心としては少しでもカサネの負担を減らしたい。だからこそカサネの仕事を手伝いたかった。けれどカサネはエレテリカの手を煩わせたくないと言って拒否する。
 エレテリカの本心では、例えどんな理由であれカサネには人殺しをしてほしくないと思っている――それも自分のためにカサネの手を汚してほしくなかった。カサネの手を汚さない最良の方法があることをエレテリカは知っている。それはカサネを拒絶することだ、拒絶すればエレテリカの元をカサネは去る。そして――エレテリカのために人殺しはしないと思っている。
 けれど、カサネを拒絶することなんて出来なかった、カサネとは離れたくない、それが嘘偽りのない本心だ。

「では、シオルを借りて行きます」
「俺は猫かよ」
「少なくとも兄弟の中では一番猫っぽいと思いますが?」

 兄弟とは第一王位継承者エリーシオと、第三王位継承者エレテリカのことだ。


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