零の旋律 | ナノ

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「勿論引き受けるよな?」
「レインドフは依頼を断らないからな」
「依頼料は言い値で構わない。俺も随時カサネの動向を探るつもりだが、一人だとどうしても手が足りない」
「今は構わないのか?」
「短時間程度なら。俺の信頼できる部下にカサネを見はらせているからな」
「なら一つ。カサネの命を狙っているエリーシオ王子の臣下ってのは、エリーシオの命令でか?」
「いいや、違う。エリー兄さんはそんなことはしない」
「わかった」

 シェーリオルは城に戻る支度を始める。と言っても、上着を二の腕までで羽織っただけだが。
 アークは普段の始末屋としての恰好のままだが、シェーリオルが隣で並んで歩けばアークの見なりも整っているようにしか映らない。それにアークが着ている服も高級品であり、並んで歩いた所で違和感はないだろう。

「……なんだろ、並んで歩くとヒースがいないのにヒースが一緒の気分になるな」
「なんでだよ。あの執事と俺は別に似ていないと思うぞ」
「いや、性格は似ていないけど、顔立ちが整っているのが似ているからな」
「そこかよ」
「あぁ。そこだ」
「……」

 シェーリオルは思わず無言になった。顔立ちが似ているのならばまだわかるが、顔立ちが整っているのが似ている理由であの執事と一緒に歩いている気分にならないでほしかった。
 シェーリオル自身性格がいい方だとは微塵も思っていないが、それでもあの執事と一緒にはして欲しくない。
 王宮に辿り着くと、兵士は一瞬アークの方を見たがしかしシェーリオルと一緒故に咎められることもなく王宮内へ入ることが出来た。アークは王宮へ足を運ぶのは初めてだったので少しばかり観光気分になり、周囲を眺める。終わりが見えないのではと思える廊下を進み、アークはシェーリオルの部屋に案内された。

「へぇ、王宮なのに個人の部屋にキッチンとかついているんだ……って王子の部屋にキッチン!?」
「俺の部屋だけな」

 シェーリオルの部屋は、個室でもかなりの広さを誇っていて、身内だけのパーティーを開けそうなほどある。王子とは思えないほど装飾は少なく、色合いも抑えられている。必要な物しか置いていない部屋だが、その中で一番目立つのはキッチンが常備されている所だろう。

「料理するのか?」
「嫌いだったら部屋にないだろ。結構料理するのは好きだぞ。クッキーとか焼いて保存しておくと、気がついたら消えていたりはする」
「は? 何故だ?」
「カサネが勝手に漁って持ってくから」
「あの策士様ってクッキーが好物なのか? それともリーシェ王子のクッキーが好きなのか?」
「後半だと嬉しいな。カサネは甘党なんだよ、甘いものには結構目がない。そしてあいつは食生活が偏っている」

 カサネが甘いものを頬張っている姿を想像して、似合うなと密かに思って想像するのを止める。
 アークは勝手に冷蔵庫の中を漁りケーキが仕舞われているのを見つけ出す。食器棚から皿とナイフ、フォークを取り出し、一人前に切り分ける。

「っておい、レインドフ。一体何を」
「折角だからリーシェ王子の作ったのを頂こうかと。今さらだけどこのショートケーキ手作り?」
「手作りだけど」
「じゃあ頂きますー」

 口の中で蕩ける生クリームの甘さは程よく、甘いのが苦手な人でも大丈夫なように工夫がされている。
 スポンジは柔らかく、口の中で自然と蕩ける。一口食べたらやみつきになりそうな美味しさだった。

「美味しい。なぁリーシェ王子。行く場所がなくなった俺ん家こい。料理人として雇ってあげるから」
「……御免だ。行く場所が仮になくなったとしてもレインドフ邸にいく気はない」
「残念」
「というか仮にも王子を料理人として雇おうって根性が凄いな」
「褒めたら来るか?」
「どれだけ褒められたって誰がいくか」

 シェーリオルが拒否している間にアークはケーキを間食した。もう一人前食べるか悩んで、しかし止めた。


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