零の旋律 | ナノ

策士決意


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 リヴェルア王国に戻ってきて二日後、アーク・レインドフの下に一通の手紙が届いた。差出人の名前はリーシェと書いてあった。デルフェニ王家の第二王位継承者が手紙とはまたあの策士カサネ・アザレアからの依頼だろうかと封を切る。そして、朝日が昇るより早く、アークはレインドフ邸を後にした。

 リヴェルア王国まで半日ほどかかる船に揺られながら、もっと移動がスムーズに出来ればいいのにと暇な船内でアークは呆然と考える。
 イ・ラルト帝国で数日間過ごしたからか、気候のよいリヴェルアは眠気に誘われるようだった。
 そして、シェーリオルが指定した高級ホテルにたどり着き、受付で名前を名乗るとすんなりと部屋まで案内される。部屋に足を踏み入れると、絨毯のふかふかした感触が地面に足をしっかりつけていない感覚になるが、不快感はない。むしろ足が軽くなるように設計されているのだろう。
 部屋ではシェーリオルがベッドで横になりながら寛いでいた。相変わらず王子に見えないなとアークは苦笑する。

「リーシェ王子、来たぞ」
「サンキュ」

 シェーリオルは起き上がって、乱れた髪を戻す。手入れのいきとどいた髪は軽く手で触れるだけで元通りになる。着崩した格好は室内でも変わらず、ワイシャツ一枚で前を軽く肌蹴ていた。

「で、あの策士様は何処だ? どうせ今回もカサネの依頼なんだろ?」
「いいや、今回は俺からの依頼だ」
「へぇ。だからか? 一人でこいって手紙に書いてあったのは」

 シェーリオルからの手紙には依頼をしたいから王都リヴェルアまで一人で着て欲しいというものだった。アークは依頼内容に従って王都まできたにすぎない。依頼内容の詳細はホテルで、と書いてあったからだ。てっきりシェーリオルからの手紙でも依頼主はカサネ・アザレアだと確信していたが、それは外れることとなる。

「あぁ。そうだ、今、カサネが命を狙われている」
「別に普通なんじゃねぇの? あの策士様裏では色々やっているんだろ?」
「いや、そうでもない。普段命を狙う輩はエレ――第三王位継承者エレテリカを狙うことが多いからな。策士とはいえ、臣下であるカサネを直接狙う者は殆どいないんだ。もっと正確にいうのなら、エレテリカに害をなすことなく、カサネだけを狙うことがない」
「そうなのか、なら今回は何故?」
「理由は不明だが、とにかくカサネを失脚させたいんだろ。エリー兄さんの臣下の誰かがカサネの命を狙っていて、カサネがその気になれば主犯格は一発で見つけられるんだろうが、カサネはそんなこと全く気にかけていなくてな」
「ふーん、つまりエレテリカ王子のことに関してならどんな手段も使うけれど、自分の命に関しては無頓着か」
「さらに言えば、カサネは今、そんなことに構う時間すら惜しいと思うほど殆ど寝ずに動いている」
「つまり俺への依頼はそのカサネの命を狙っている輩を殺せばいいのか?」
「あぁ、俺の友人として城に招く」

 そこで、アーク一人でと書かれていたのだ。

「なぁ貴族レインドフ」

 貴族としての振る舞いや礼儀を一通り心得ているアークであれば、レインドフの名前さえ隠せば怪しまれることはないだろうし第一シェーリオル王子の友人といって招かれた客を疑うことは出来ないだろう。

「それにしてもいいのか?」
「何がだ?」
「エリー兄さんってのはエリーシオのことだろ? その臣下を――エリーの部下を殺しても」
「構わない。カサネの命を狙う輩は――俺の敵だ」

 絶対零度の微笑みは端正な顔だちがより一層魅惑的に引きだされながら、見る者全てを氷つけるような冷気が漂う錯覚を見せるだろう。
 命を奪うことも躊躇しない残酷さをはらんだその笑みは、王子とは思えないほどに凄惨な美しさを誇り、そして王子だと誰もが頷く跪く力が空気から伝わる。


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