零の旋律 | ナノ

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 三日後、やたら着込んだハイリ・ユートがカルミアの自宅二階に姿を現した。一階の酒場はすでに再開し普段と変わらぬ賑わいを夜は見せているが、昼間は閉店中だ。

「で、怪我人はあれか」

 ハイリの視線は未だベッドで横になっているヴィオラへ向く。不思議な髪色を持つ青年だなと感想を抱く。

「あぁ」

 ハイリはヴィオラに近づいて布団を勢いよくはぐ。あちらこちらが痛々しく包帯で巻かれている。
 手短な部分を試し外してみると、生々しい怪我の後がくっきりと残っていた。しかし処置は適切に誰かがやったのだろうとハイリは経験から判断する。

「大分酷い怪我だな」
「あぁ。中々治らなくてな……腕のいい治癒術師だときいたが?」
「腕がいいかはしらねぇし、自負するつもりはないが、とりあえず怪我は治せる」
「それならいい。任せた」

 ハイリは包帯を一つ一つ傷が痛まないように外していき、全ての包帯を外し終えた後で、怪我が一番酷い腹部にまずは手をかざす。ブレスレットにしている魔石が輝き、手袋が発光しているように映る。数十分後、全ての処置を終えたハイリはヴィオラに痛みがないか問う。ヴィオラは起き上がり柔軟体操をするように身体を動かすが、痛みという痛みは見つからなかった。しいて言うなら横になり過ぎて腰が痛い。

「凄いな、此処まで腕のいい治癒術師は初めてだ。で治療費はいくらだ? アークからアンタはぼったくり治癒術師だってきいたが」
「あの野郎余計なことを……まぁ事実だけど」

 ハイリが金額を告げるとヴィオラは半目になりながらアークの言葉が真実そのままだったことを悟る。最も最初からアークの言葉を疑ってはいなかったが、ハイリの要求金額はヴィオラの予想を上回るものだった。当然手持ちでは足りない。アークが代わりに払ってくれることになった。

「アーク、立て替えてもらったのは後日届けに行く。俺はこのまま――向かう先があるから失礼する」

 ヴィオラはアークとリアトリスが選んできた新しい服に袖を通す。今まで来ていた服はヴァイオレットによってボロボロになったからだ。

「カルミア、助かった。礼をしたいところだが生憎今は手持ちが何もないんでそれもまた今度」
「別に構わないわよ。少し賑やかな日々を過ごしたとでも思えば」
「サンキュ。でもお礼は必ず」

 ヴィオラはそう言ってカルミアの自宅を後にした。
 アーク達も帝国に留まる理由がなくなったため、帰国する準備を始める。船のチケットをアークが取り、出航時間が近づくとカルミアの自宅を後にし、リヴェルア王国へと帰国した。アークの偽名がばれることも、アークが研究所襲撃犯だと発覚することもなかった。
 それはすなわち軍師アネモネが襲撃犯の名前を伝えなかったことに他ならない。


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